東京都心部で行われたAIオンデマンド交通の実験が波紋を広げている。高速バス大手WILLERとKDDIの共同出資会社「Community Mobility」とタクシー事業者の東京エムケイが東京都渋谷区で取り組んだ実証運行に、地元の交通事業者は「商用化すれば需要を奪われかねない」などと反発。2022年7月に計画していた本格運行が棚上げになったまま、試験サービスは6月末に終了した。2022年4月から実証運行中の豊島区でも、2023年4月に期限を迎えた後に本格運行へスムーズに移行できるか、渋谷区と同様に不透明な情勢だ。
駅から遠くバスの路線も少ない公共交通の空白地帯は、地方だけでなく人口密集地にも点在している。こうした地域に新たな「暮らしの足」を定着させながら、地元の公共交通事業者とも共存していくための道筋をどうつけるか。AIオンデマンド交通の円滑な導入を巡り、一筋縄ではいかない課題が浮上している。
Community Mobilityと東京エムケイが渋谷区で2022年6月末まで提供していたのは、近距離の移動需要を狙った定額モビリティーサービス「mobi(モビ)」だ。大人1人の片道運賃は300円だが、目玉はサブスクリプション制だ。指定エリア内なら30日間5000円(税込み、以下同)で乗り放題になる。同居家族も1人当たり500円で追加登録できる。
利用イメージはこうだ。指定エリアに「仮想乗降場所」と呼ぶ乗降地点が設けられ、会員は専用アプリや電話で出発地と目的地を指定して乗り合い車両を呼び出す。AI(人工知能)運行管理システムが複数の会員からの呼び出しを処理し、道路の混雑状況や同乗者の目的地も勘案して最適なルートで送り届ける。東京エムケイが渋谷区にある指定エリア内の運行を担い、Community Mobilityが運行管理システムなどを提供していた。
渋谷区での実証運行は2021年7月から2022年6月までの1年限りだった。運行期間を「原則1年以下」とする条件で地域限定の乗り合い運送を認める、道路運送法第21条の許可を得て実施していたからだ。そこでCommunity Mobilityなどは予定通り2022年6月に実証運行を終えた後、2022年7月から本格運行に移行する計画だった。
こうした計画に「待った」をかけたのが地元の交通事業者だ。
Community Mobilityや東京エムケイといったmobiの運営サイドは、渋谷区での本格運行に当たって道路運送法第4条に基づく許可を得る必要がある。そのためには、事前に自治体や交通事業者、業界団体などで構成する「地域公共交通会議」で合意形成を図らなければならない。