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 日本政府が半導体復権に本腰を入れ始めた。台湾積体電路製造(TSMC)は熊本県菊陽町に続く国内第2工場を計画。国策企業Rapidus(ラピダス、東京・千代田)は米IBMと協業し、2nm世代プロセスの量産を目指す。ラピダスはいかに量産につなげるのか。復権はなるか。世界の半導体状況に詳しいインフォーマインテリジェンス シニアコンサルティングディレクターの南川明氏に聞いた。(聞き手=中道 理、久保田龍之介)

インフォーマインテリジェンス シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
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インフォーマインテリジェンス シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
(写真:南川明)

TSMCが日本で2カ所目となるロジック半導体量産工場の建設計画を明らかにしました。

 TSMCとしては、日本に第2工場や第3工場までは設置しようと、もともと考えていたようです。同社の日本工場建設の目的として経済合理性よりも地政学的な要素が大きいですが、将来的には利益を出さないといけません。1カ所だけでは採算性が低いため、規模を大きくする必要があります。

 熊本県菊陽町で建設が進む第1工場は、ソニーグループのイメージセンサー事業などに向けた28nm世代が中心です。まだ発表はされていないのではっきりは分かりませんが、第2工場では12nm世代プロセスぐらいの量産を狙っているのではないでしょうか。クルマの画像処理用ICなどが用途とみています。

 同社の日本への工場建設の背景には、米国政府の後押しがあります。日本は、半導体分野における米国の最大のパートナーだからです。

 世界的な半導体サプライチェーンの強化には、装置・材料に強みがある日本が欠かせません。ただ、先端ロジック半導体の量産拠点が日本国内にない状況では、日本の装置・材料技術が衰退していく恐れがあります。米国としては、日本のような同盟国でない地域にこれらの技術が流れてほしくないわけです。そこで米国政府が、背後で動いたという経緯です。

課題という意味では、日本には半導体人材が足りません。

 人材不足は、一番の問題です。2022年には、日本の国策として、ファウンドリー企業ラピダスがスタートしました。その目的の1つが、「半導体人材の受け皿」としての役割です。同社が目指す最先端の2nm世代プロセスの量産ノウハウを持っていたり、そのために欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置を使ったことがあったりするエンジニアを日本に集めないといけません。

 まずはラピダスへ、海外からの人材を引っ張ってくる必要があります。これらの人材と日本のエンジニアが一緒に仕事をすることで、ノウハウが蓄積していきます。つまり、ラピダスは即戦力をつくる器です。

 ラピダスがすぐに利益が出せる企業になるのは難しいでしょう。支援をする政府側もその意図はありません。量産まで5兆円をかけ、それを回収して利益を生み出すハードルは高いと言わざるを得ません。