2nm世代プロセスの量産を目指すファウンドリー企業Rapidus(ラピダス、東京・千代田)が成功するために必要なのは、GAA(Gate All Around) 2nmプロセス半導体の生産ノウハウにとどまらない。量産に向けて、歩留まり向上や人材確保が課題になってくる。
台湾TSMC(台湾積体電路製造)や韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の先例から読み解ける、ラピダスが実施すべき方策は何か。台湾に拠点を置くアナリスト集団Isaiah ResearchのVice PresidentであるLucy Chen氏に聞いた。(記事構成は久保田龍之介=日経クロステック/日経エレクトロニクス)
Isaiah Research Vice President

ラピダスが短期間でTSMC並みの量産技術を習得することは極めて難しいと言わざるを得ません。理由は2つあります。(1)先端半導体の量産までにかかる期間、(2)サムスン電子との比較――です。
(1)Isaiah Researchの予測やTSMCの公式発表から得られた情報をまとめると、TSMCは2nm世代プロセスでの量産の準備に5年を見込んでいます。2nm世代プロセス生産が完成したのが2020年第1四半期。その後、2024年にリスクプロダクション†を実施、そして2025年に量産にこぎ着ける計画です。
つまり、TSMCのような十分なノウハウを持つファウンドリーでさえ2nmプロセスの量産をゼロから始めると5年がかかるわけです。ラピダスについても、生産技術の確立から量産まで5年以上はかかるとみておくべきでしょう。ラピダスは2027年に2nm世代プロセスの量産を目指すということですから、そうした計算があるのかもしれません。
TSMCの生産能力に追いつけないサムスン電子
(2)サムスン電子は世界でも主導的なファウンドリーの1社で、TSMCの競合企業といえます。そのサムスン電子でさえ、顧客の数や生産能力、歩留まりでTSMCと同じ量産レベルに追いつけていません。
例えば、2023年末までのサムスン電子とTSMCの3nm世代プロセスの生産能力を比較してみます。我々は、TSMCが月産約6万~7万枚、サムスン電子が同5000~1万枚のウエハー生産能力があるとみています(図1)。
5nm世代プロセスではどうでしょうか。2023年末時点で、TSMCには月産13万~14万枚の生産能力がありますが、サムスン電子は8万~9万枚に達する程度だと推測できます(図2)。
日本には半導体装置や材料分野での強みがありますが、それでも高い歩留まりや生産能力を実現する要素がまだ不足しています。サムスン電子の例から、これらを実現するカギはファウンドリーとしてのノウハウや生産能力拡大の経験であると分析できます。
ファウンドリーの工場(ファブ)には、多数の人員が必要です。例えばTSMCでは、月産2万5000~3万枚のウエハー生産能力を維持するために、200~500人の研究開発エンジニアや、その他のテクニシャン(特殊技能者)、オペレーターを含む約2000人で工場を運営しています。
そのため、世界中のファウンドリーにとっての共通課題が「人材の確保」です。TSMCやサムスン電子、米Intel(インテル)のようなファウンドリーは今後数年、積極的に生産能力を拡大していきます。人材不足は今後より深刻になるでしょう。そこで重要なのが、半導体人材の関心を引き、そして引き留め続ける策です。