3Dプリンター〔付加製造(AM)装置〕が世の中に広く知れ渡ったのは約10年前。検索キーワードの人気度が分かる「Googleトレンド」で2004年以降の動向を調べると、世界全体で2013年5月頃に「3D printer」の検索数がぐっと伸びている。一部の樹脂系3Dプリンターの基本特許が切れて安価な3Dプリンターが次々と登場したことや、米テクノロジー誌「WIRED」元編集長のクリス・アンダーソン氏が著書『メイカーズ』で3Dプリンターを革命的なツールと紹介したことがブームの火付け役となった。ただ、当初は試作や個人の趣味の範囲を超えて社会実装した例が少なく、数年で熱狂的なブームは去ってしまった。
しかし、3Dプリンターの技術は着実に進歩を続け、ついに活用が本格化しようとしている。米Grand View Researchによると、2030年の世界の3Dプリンティング市場は2022年比で4.5倍の761.7億米ドル(約10兆円)にまで成長する見通し。そうした盛り上がりを象徴するのが今回で8年目を迎えた世界最大級の3Dプリンティングの展示会「Formnext 2022」(2022年11月15~18日、ドイツ・フランクフルト)だ。新型コロナウイルス感染症の影響が若干残る中でも、出展社数、来場者数、展示会場面積は2019年に次ぐ過去2番目の規模となった。
展示がスカスカでも盛況
今回のFormnextで印象的だったのは、複数の業界関係者が異口同音に「Formnextの果たす役割が変化している」と語っていた点だ。かつては3Dプリンターという目新しいツールに触れて学ぶ側面が強かった。一方でFormnext 2022は「来場したユーザーが自身の利用目的に合った装置を見定める場だった」(業界関係者)。産業が成熟化し、最終製品や量産品での利用が広がろうとしているのだ。
来場者の目的の変化に併せて、大手メーカーのブースのあり方も変わりつつある。ドイツEOSは3Dプリンター本体の展示を最低限の2台に抑え、来場者と話をするための机と椅子を並べたエリアを広く設けた。「ユーザーと当社の装置で何ができるか具体的に議論する例が増えている」(同社)。米GE Additive(GE アディティブ)も装置を置かず、資料を投影するディスプレーや同社の3Dプリンターで造形した部品を使って来場者とコミュニケーションを取ることに重きを置いていた。ブースを訪れた人は「展示はスカスカなのに混んでいた」とその盛況ぶりを語った。
両社とも相談に来るユーザーは重工系が多かったという。米国機械学会(ASME)が主に航空宇宙に関わる企業400社余りを対象に行った2021年の調査では、約5割が実製品の製造手段として金属3Dプリンターが使えると回答した。最終製品で3Dプリンターを使う動きが拡大する中、重工メーカーは用途に最適な装置を模索しているようだ。
ブースに3Dプリンターを活用した生産ラインを展示した企業も複数あった。3Dプリンターは量産品の製造ツールとしても期待が集まっている。ただ、造形スピードの遅さや搬送・後処理などの工程に人手がかかる点が課題となっていた。そうした課題を解決できる生産ラインを展示し、ユーザーの本格導入を後押しする狙いだ。
例えば、米Stratasys(ストラタシス)は同社製の樹脂系3Dプリンターを6台使った生産ラインのデモンストレーションを展示した。造形した部品はロボットアームで取り出され、ベルトコンベヤーに載る。その先にある後処理装置が造形物の洗浄、乾燥、硬化を自動で行う設計だ。同社担当者は「人手がかからないので、スループットを上げられる」と語る。マスカスタマイゼーションを志向する自動車業界などでの利用を想定する。
3Dプリンティングした造形物の後処理装置を手掛ける英Additive Manufacturing Technologies(AMT)も未来の工場をイメージした生産ラインを展示した。粉末除去、表面処理、着色などをする同社の装置への部品の出し入れをロボットで行い、3Dプリンターを使った生産工程を全て自動化している。他にも英スタートアップのRivelin Roboticsが金属3Dプリンターのサポートを自動で除去する装置を開発するなど、量産工場での利用を想定した提案が増えている。