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 「造形速度500倍、コスト90%減」――。そんな衝撃的な数値を掲げた金属3Dプリンターが現れた。手掛けたのは日本製鉄の出身者などが2021年2月に創業したスタートアップSUN METALON(サンメタロン、川崎市)。今までの3Dプリンターとは異なる「新原理」(同社)の造形手法を採用している。2023年に米国市場を中心に販売を本格化する計画だ。

新原理の3Dプリンターで造った造形サンプル
新原理の3Dプリンターで造った造形サンプル
(写真:日経クロステック)
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 現在、金属3Dプリンターの造形方式として最も普及しているのは、薄く敷き詰めた金属粉をレーザーや電子ビームで溶融し、積層させていく「粉末床溶融結合(PBF)方式」だ。他には、敷き詰めた金属粉に選択的に結合剤(バインダー)を噴射して焼結によって固める「バインダージェット(BJT)方式」や、レーザーや電子ビームを照射した位置に金属粉末などを吹き付けて肉盛り溶接のように積層させる「指向性エネルギー堆積(DED)方式」などがある。

 SUN METALONが開発した金属3D プリンター「PLUTOシリーズ」は、造形材料に金属粉を使い、それを焼結で結合させる。そうした要素は既存の造形方式と類似する。ただ、造形プロセス全体を見ると「従来の造形方式とは大きく異なる」〔SUN METALONでCEO(最高経営責任者)を務める西岡和彦氏〕としている。

 同社は技術の全貌を明らかにしていないものの、高速造形を可能にする鍵の1つは積層造形する各層を固める方法にあるという。PBF方式では、レーザーなどを「点」で金属粉に照射して溶かす。このため、1層を造形するのに時間がかかる。BJT方式では「線」状のプリントヘッドのノズルからバインダーを噴射するので、PBF方式よりは造形速度が速い。

 対してSUN METALONの新原理は特殊な電磁波を使い、敷き詰めた金属粉を「面」で固めていく。比較的厚みのある1層を一度に加熱し、焼結するのだ。「点」や「線」よりも「面」のほうが同じ時間で固められる金属粉の面積・体積が大きい。その結果、同社の金属3D プリンターは「点」で加熱するPBF方式と比較すると約500倍の速さで造形できるという。

従来方式とSUN METALONの3Dプリンターの造形原理のイメージ
従来方式とSUN METALONの3Dプリンターの造形原理のイメージ
PBF方式などレーザーを使う造形では「点」、BJT方式では「線」で金属粉を固めていくのに対し、SUN METALONは「面」で固める。(出所:SUN METALON)
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 2023年に販売する初号機「PLUTO」の最大造形サイズは、縦150×横150×高さ400mm。この150×150mmの面を一度に加熱し、高さ(z軸)方向に1分間に約2mmの速さで造形していく。加熱する面積がさらに大きい装置の提供も計画している。具体的には、2024年に販売を予定する「PLUTO L」の最大造形サイズは縦500×横500×高さ500mm、2026年に販売予定の「PLUTO XL」のそれは縦1000×横1000×高さ1000mm。大型化した装置も初号機と同様に一度に1層分を加熱・焼結する。部品の強度を高めるために、造形後に約8時間の後焼結が必要であるものの、既存の金属3Dプリンターに比べると各段に生産性が高い。