全2388文字
PR

 米HPは世界最大級の3Dプリンティングの展示会「Formnext 2022」(2022年11月15~18日、ドイツ・フランクフルト)に出展し、同社初の金属3Dプリンターや樹脂系3Dプリンターの新機種を披露した。ブースの大部分はユーザーなどによる造形品の展示に割いた。金属3Dプリンターは、先行して利用した企業が最終製品を含む生産に役立てている。樹脂系3Dプリンターも展示会前の1年間で計7000万個以上の部品印刷に使われるなど利用が活発化しており、多様な活用例が並んだ。

 会場では、2022年9月に発表した「HP Metal Jet S100ソリューション」を初めて一般向けに展示した*1。同ソリューションは敷き詰めた金属粉に選択的に結合剤(バインダー)を噴射して焼結によって固める「バインダージェット(BJT)方式」の金属3Dプリンターとその前後工程を担う装置群、付加製造(AM)に必要なソフトウエア、サービスなどから成る。印刷業界で長年培ってきた技術を生かして開発したプリントヘッドや特殊なバインダーによって、高品質な部品を高い再現性で生産できるとしている。

*1 HP Metal Jet S100ソリューションの日本での販売は、2023年後半を予定している。
HP Metal Jet S100ソリューションの金属3Dプリンター
HP Metal Jet S100ソリューションの金属3Dプリンター
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 HP Metal Jet S100ソリューションは、HPと協力関係にある一部のユーザーが既に最終製品用途で使い始めている。例えば、「John Deere」ブランドで知られる農機メーカーの米Deereは、英GKNの子会社とトラクターの燃料系統のバルブを製造した。このバルブは古いトラックの補修用部品で、従来は10~12個の部品を組み立てて造っていた。AMによって全ての部品を一体造形できるようになったことで、他のどの工法と比較しても安く、速く製造できたという。過酷な気象条件下でも問題なく使えている。

DeereなどがHPの金属3Dプリンターで造ったバルブ
DeereなどがHPの金属3Dプリンターで造ったバルブ
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 フランスSchneider ElectricはGKN子会社とブレーカー用のフィルターをHP Metal Jet S100ソリューションで製造した。このフィルターは従来、コストのかかる労働集約的な工法で製造していたという。AMによる部品一体化で組み立て工程を減らし、生産の機械化を進められた上、従来工法では造れないような複雑なメッシュ構造を実現できた。加えて、形状の自由度が増し、部品の小型・軽量化にもつながった。HPのBJT方式は生産性が高く、量産品向けに使えるとSchneider Electricはみる。

Schneider ElectricらがHPの金属3Dプリンターで造ったフィルター
Schneider ElectricらがHPの金属3Dプリンターで造ったフィルター
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 ドイツのスポーツ用品メーカーPUMA子会社の米Cobra Puma Golfは、HP Metal Jet S100ソリューションと同様の技術で造ったゴルフクラブを2020年に販売している。商品化された最初の3Dプリントゴルフクラブである「KING SUPERSPORT-35パター」のヘッド内部は、鋳造や鍛造では造れない複雑な格子(ラティス)構造をしている。この格子構造により、重量配分を最適化し、ボールが芯から外れて当たった場合でも、今までより安定して飛ぶようにした。約13時間で72個のゴルフパターを造形可能という。

写真奥と手前中央がCobra Puma Golfが販売したKING SUPERSPORT-35パター
写真奥と手前中央がCobra Puma Golfが販売したKING SUPERSPORT-35パター
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]