導電性や熱伝導性に優れた物性を持つ銅は、電気⾃動⾞(EV)に搭載するバッテリーやモーターなど、さまざまな⼯業製品を構成するために広く使われている材料である。これが、「⾼効率で⾼出⼒な⻘⾊レーザーダイオード(LD)ならば、最⼩限のエネルギーで銅をより微細に加⼯できる」とパナソニック ホールディングス マニュファクチャリングイノベーション本部 ⽣産・環境技術研究所の⼤野 啓⽒はいう。同社は環境省の「⾰新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業」において「パルス駆動機能搭載の⾼ビーム品質・⾼出⼒⻘⾊レーザー加⼯機の量産開発」プロジェクトに取り組んでおり、今後のGaN⾃⽴基板への期待を聞いた。
パナソニック ホールディングス(以下、パナソニック)では、多様な加工技術に応えるさまざまな仕様のレーザー加工システムを開発・供給している。同社は、工場に導入する加工システムだけでなく、レーザービームを出射する発振器、そしてブレードと呼ばれる光源ユニット、さらにはレーザーモジュールまで自社で一貫して開発・製造している(図1)。各階層の技術の間で、仕様や方式を擦り合わせ、高度な加工システムを作ることができる点が同社の強みである。
現在、同社は、環境省の「革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業」の一環として、銅に対する光吸収率の高い青色レーザーを使用した高出力・高ビーム品質レーザー発振器、およびパルス駆動機能を付加した青色パルスレーザー加工機を開発。加えて、同事業では、レーザーモジュールに搭載する信頼性の高いLDを、より低欠陥なGaN基板をベースにして作製することも検討している。
青色レーザー加工機で、EVの進化を後押し
世界中でEVシフトが進む中、車載システムの電動化・電子化が急速に進んでいる。その結果、大電流で駆動する車載電子システムの数と種類が急増。それらを構成する精密な部材を作るため、銅など難加工材料を微細に加工するニーズが高まっている。具体的には、二次電池に組み込む電極材料の切断と溶接、車載モーターや車載モジュールを組み立てる際の接合、制御基板への極小部レーザー実装、金属光造形などで、より微細な銅の加工が求められている。
銅と同様に工業製品を構成する金属材料として広く使われている鉄については、近赤外レーザー加工機の活用によって、高効率な加工が可能になった。レーザービームは、指向性と集光性に優れているため、照射部分のみを融解・蒸発させることができる。また、加熱領域を最小限に抑えることで、加工対象の変形を最小限に抑えられる。
ところが、GaAs/GaP系LDを一次光源として搭載する近赤外レーザー光源(波長は約1000nm)を利用する従来加工機では、銅をうまく加工することはできなかった。銅は該当波長領域の光吸収率が小さいからだ。もちろん、出力を高めて、入力電力を大きくすればまったく加工できないわけではない。しかし、工業製品を量産する工程に適用する技術としては効率が悪く、しかも加工中にボイドやスパッタと呼ばれる副生成物が生じて思い通りの加工ができなくなる可能性があった。
ただし、GaN系LDによる青色レーザー光源(波長は約450nm)で出射するビームならば、銅での光吸収率が十分高いため、高効率な加工が可能になる(図2)。しかも、青色レーザーは、「銅が固相から液相、液相から蒸発に至る転移点における吸収率の変化が、近赤外線に比べて小さい。このため材料が突沸しにくく、入熱制御が容易であり、ボイドやスパッタの発生を比較的容易に制御可能である。その結果、高品質な加工が実現できる」(大野氏)という。