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 物理的性質や化学的性質、品質、価格、生成の容易性や原材料の入手容易性など――。電子デバイスを構成する材料として半導体材料の価値を測る切り口は多様である。窒化ガリウム(GaN)は、絶縁破壊電界強度や飽和電子速度、バリガ性能指数注1)などの物理的特性において、シリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)を上回る数々の優れた特性を備えている。このため、より高性能なパワー半導体や高周波デバイスを実現するためのベース材料として、その活用に期待が集まっている。

注1)バリガ性能指数は半導体材料の物性値(誘電率、電子移動度、および臨界電界)によって決まる。ユニポーラパワーデバイスの耐圧を固定した場合、バリガ性能指数が大きいほど理想特性オン抵抗は小さくなる。

 GaNには、他の半導体材料に対する見逃せない特徴がもう一つある(表1)。高い汎用性である。

 半導体材料としてのGaNは、LEDやレーザーなど光デバイス、高周波デバイス、ACアダプターなどで普及が進み始めた中耐圧パワー半導体など、既に多様な半導体デバイスの量産に使われている。そして、GaN on GaN基板を活用すれば、電気自動車(EV)のモーター駆動用インバータ回路に適用する高耐圧パワー半導体を作ることもできる。その他、センサーやアナログICとしても製品化実績があり、デジタルLSIを開発した例さえある。

 こうした、機能や性能の異なる多種多様な半導体デバイスのベース材料となり得る高い汎用性は、GaN以外には、半導体材料の王者であるSiだけに見られる稀有(けう)な特徴といえるだろう。

GaNが持つ高い汎用性は、競合材料にはない稀有な特徴

 そもそもGaNは、SiCよりも結晶化や加工が難しい材料である。半導体デバイスの構造を形成するのには不利な材料だといえるかもしれない。それにも関わらず、GaNが多くの半導体デバイスとして利用されているのには理由がある。1つは、半導体デバイスの機能や性能を作り込む際に求められる複数の物理特性をバランスよく兼ね備えていること。特定の物理特性だけが際立って優れていても、デバイスとして機能させるために必要な他の物理特性が劣っていたのでは、半導体デバイスは作れない。

 もう1つは、半導体デバイスを構成する上で有用な化合物を作り出せる化学的特性を持っていること。高周波デバイスとして使われるHEMT(高電子移動度トランジスタ)の電子が高速移動できる領域である2DEG(2次電子ガス)層を形成するためのAlGaNが典型例である。

 ちなみに、Siが多種多様な半導体デバイスのベース材料として利用されているのにも理由がある。まず、極めて原料が調達しやすい半導体材料だったこと。発明された当時のトランジスタはゲルマニウム(Ge)で作られていたが、より容易かつ安価に原料を調達できるSiで高品質な単結晶を作る技術が確立されたことで、Geに取って代わった。

 もう1つは、加工しやすい物理的・化学的特徴を備える材料だったこと。この特徴に潜む可能性を微細加工技術の進歩によって最大限まで引き出したことで、今日のデジタル社会の発展につながった。

表1 半導体材料の中でのGaNの特徴
(出所:各種ホームページを基に日経BP 総合研究所が作成)
表1 半導体材料の中でのGaNの特徴
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