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 米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)が、自社開発した半導体チップやソフトウエア技術によってITインフラストラクチャーの性能を拡張する取り組みを加速させている。2022年11月28日(米国時間)に始まった年次イベント「AWS re:Invent 2022」の初日の基調講演で、ネットワークやストレージ、サーバーレスコンピューティングを高速化する新技術を公表した。

 28日に講演したのはAWSのPeter DeSantis(ピーター・ディサンティス)シニア・バイス・プレジデント(SVP)だ。AWSは2012年からディサンティスSVPの指揮の下、ネットワーク処理やストレージ処理をサーバーCPUからオフロードする専用チップ「Nitroチップ」を独自開発し、2014年から仮想マシンサービスAmazon EC2の物理サーバーに搭載している。

 今回ディサンティスSVPはNitroチップの第5世代である「Nitro v5」を発表した。Nitro v5は前世代に比べて、パケット送信速度(パケット/秒、PPS)が60%改善したほか、ネットワーク遅延も30%改善したとする。

「AWS re:Invent 2022」で講演する米アマゾン・ウェブ・サービスのピーター・ディサンティス氏
「AWS re:Invent 2022」で講演する米アマゾン・ウェブ・サービスのピーター・ディサンティス氏
(写真:日経クロステック)
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 同時にディサンティスSVPはNitro v5を搭載した新しいEC2インスタンスである「C7gn」インスタンスも発表した。C7gnインスタンスのネットワーク帯域は200ギガビット/秒(Gbps)と高速で、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)などの分散コンピューティングに適しているという。

 HPC用途に関しては、AWSが独自に開発したArmサーバープロセッサーである「Graviton」をHPC用に機能拡張した「Graviton3E」も発表した。既に発表している第3世代の「Graviton3」に比べて浮動小数点演算性能を強化した製品だ。Graviton3よりもHPL(High Performance LINPACK)ベンチマークで35%高性能だとしている。

TCPよりも高性能なプロトコルSRDを活用

 ディサンティスSVPは続いて、AWSが独自に開発したトランスポートプロトコル「SRD(Scalable Reliable Datagram)」を使って、ネットワーク性能を改善させる取り組みを発表した。

 SRDはAWSがHPC性能を改善するために開発した独自のプロトコルで、2019年に発表した。ディサンティスSVPはSRDがTCPよりも高性能であると主張している。

 TCPはコネクションは単一のネットワーク経路を使用するシングル・パス・スルー・ネットワークであり、パスの一部に低速なルーターが含まれるとコネクション全体が低速になる。これに対してAWSが開発したSRDは、コネクションが複数の経路を使うマルチ・パス・スルー・ネットワークであるため、一部の問題が全体に波及しづらい、というのがディサンティスSVPの主張であった(TCPにも「マルチパスTCP」という拡張仕様が存在するが、それほど一般的ではない)。

 これまでSRDは、AWSがHPC向けに提供する「Elastic Fabric Adapter(EFA)」というEC2用ネットワークインターフェースを使う場合に利用できた。ディサンティスSVPは今後、HPC以外の目的にもSRDを使い始めると話した。

 まずは汎用のブロックストレージサービスである「Amazon EBS」において、EC2インスタンスとの通信にSRDを適用する。これによってEBSの遅延が最大90%改善するとした。SRDの適用対象となるのはEBSの「io2」ボリュームタイプで、2023年から利用可能になる予定だ。