全1916文字
PR

 日経クロステックは5人の有識者を招き「ITインフラテクノロジーAWARD 2023」として、2023年に流行する技術を選出した。選考会に参加したのは、野村総合研究所(NRI)の石田裕三 産業ITグローバル事業推進部 エキスパートアーキテクト、ウルシステムズ会長とアークウェイ社長を務める漆原茂氏、国立情報学研究所の佐藤一郎 情報社会相関研究系 教授、Publickeyの新野淳一 編集長/Blogger in Chief、デロイト トーマツ コンサルティングの森正弥 執行役員だ。有識者5人それぞれが一番に推す注目技術を紹介する。

データとコードを分離させ実装しやすく

個人的注目技術:DOP(Data-Oriented Programming)

野村総合研究所 産業ITグローバル事業推進部 エキスパートアーキテクト
石田 裕三氏

 複雑化の一途をたどるシステムに対し、データは変わらないことに注目したのがDOPだ。古典的オブジェクト指向との違いはデータとコードのクラスを分離する点である。データクラスは不変性を保証する。また、クラスの継承を用いたコードの再利用ではなく、共通関数化によるコードの集約を行う。COBOLなど手続き型で記述されたレガシーな業務アプリケーションでは共通サブルーチンが複雑化する問題があるが、DOPではパターンマッチングを使い、ケース網羅性をコンパイラーで担保する。Javaの言語アーキテクトを中心に、オブジェクト指向の限界を超えた新たなパラダイムへの関心が高まっている。

(写真:中野 和志)
(写真:中野 和志)
分散環境における書き込み処理が可能に

個人的注目技術:分散SQL

ウルシステムズ 会長、アークウェイ 社長
漆原 茂氏

 スケーラビリティーとデータ一貫性を両立するデータベースである「分散SQL」に注目している。従来のRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)はデータの一貫性を保つことができる一方でスケーラビリティーに限界があったが、分散SQLはこの問題を解決する。スケーラブルな環境でもデータの一貫性と高可用性を実現できる。SQLを使えるため既存システムとの親和性も高い。クラウドネイティブなアプリケーション開発の加速が期待される。

(写真:中野 和志)
(写真:中野 和志)
自動車の鍵としての使い方に注目

個人的注目技術:パスキー

国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授
佐藤 一郎氏

 パスキーはデバイスに登録された秘密鍵とサーバー側に登録された公開鍵、および生体認証を組み合わせることで、パスワードレスの認証を実現する技術だ。近年はスマートフォンを家の鍵として使うことができるようになってきた。注目しているのは自動車の鍵としての使い方だ。ドアの施錠・解錠、高速道路料金の支払い、車内での音楽再生までスマートフォンで完結する。物理的な鍵を所有する意義が薄まり、カーシェアリングの普及が進むはずだ。自動車産業を含めて広範な影響があるだろう。

(写真:中野 和志)
(写真:中野 和志)