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 中央区の築地、勝どき、月島、晴海、江東区の豊洲、青海、有明といった東京の湾岸エリアの多くは、江戸時代から明治時代、そして昭和にかけて造成された埋め立て地だ。このエリアでは、役割を終えた建築はすみやかに解体され、また次の時代に向けた施設に生まれ変わっていく。そんな東京のダイナミックな変遷を実感できるスポットを“巡礼”してみてはいかがだろうか。「そういえばあの建築、どうなっているのかな」と思い立ったが吉日。解体後のまっさらな土地や閉鎖後の施設、オープンして数年後の施設など、「いま」でなければ見られない風景を見に行こう。

 東京湾岸エリアは近年、変化が著しい。例えば、卸売市場が築地から豊洲に移転。そして、長らく更地であった晴海には、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックの選手村が設けられた。さらに、大会後は「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」という名で分譲マンションや商業施設などを開発。青海では商業施設「パレットタウン」の閉鎖と再開発が進んでいる。

 筆者は1999年から2009年までの10年間、勝どきにある都民住宅のマンションで暮らしていた。そのため、倉庫と長屋が立ち並ぶなかをトラックばかりが行きかう「陸の孤島」から、急激にタワーマンションが増え、ウオーターフロントの新しい住宅街へと景色が変わっていく様子を目の当たりにしてきた。千葉県出身の筆者としては「東京、半端ない」という思いで、素直にわくわくしたものだ。その一方、見慣れた建物があっという間に解体されて消え、その場に関わる自分の記憶までもが抹消されてしまうような寂しさも感じた。

 今回は、そんな高揚とせきりょう感を味わえる、都市の解体と再生の現場を中心に巡るルートを前後編に分けて紹介しよう。都営バスや、新交通の「ゆりかもめ」を使うと、結構なスポットを回ることができる。

時代に翻弄された東京湾岸エリアをたどる散歩ルート
 

1:浄土真宗本願寺派築地本願寺
2:築地KYビル
3:築地場外市場
4:築地市場跡
5:勝鬨橋
6:勝どきビュータワー
7:晴海トリトンスクエア
8:晴海三丁目(バス停)
9:晴海埠頭(バス停)
10:旧晴海客船ターミナル
11:都立晴海ふ頭公園
12:ほっとプラザはるみ前(バス停)
13:HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)
14:春海橋(バス停)
15:旧晴海鉄道橋
16:アーバンドックららぽーと豊洲
17:豊洲シビックセンター
18:豊洲市場
19:豊洲市場屋上緑化広場
20:K-MUSEUM(共同溝展示館)
21:夢の大橋
22:東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート
23:旧パレットタウン

※散歩時間の目安:およそ6時間30分(見学時間や休憩などを含む、取材の際の時間)。1~7は前編で、8~23は後編で紹介。一部、バス停のポイントを含む

時代に翻弄された東京湾岸エリアをたどる散歩ルート。1:浄土真宗本願寺派築地本願寺、2:築地KYビル、3:築地場外市場、4:築地市場跡、5:勝鬨橋、6:勝どきビュータワー、7:晴海トリトンスクエア、8:晴海三丁目(バス停)、9:晴海埠頭(バス停)、10:旧晴海客船ターミナル、11:都立晴海ふ頭公園、12:ほっとプラザはるみ前(バス停)、13:HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)、14:春海橋(バス停)、15:旧晴海鉄道橋、16:アーバンドックららぽーと豊洲、17:豊洲シビックセンター、18:豊洲市場、19:豊洲市場屋上緑化広場、20:K-MUSEUM(共同溝展示館)、21:夢の大橋、22:東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート、23:旧パレットタウン(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)
時代に翻弄された東京湾岸エリアをたどる散歩ルート。1:浄土真宗本願寺派築地本願寺、2:築地KYビル、3:築地場外市場、4:築地市場跡、5:勝鬨橋、6:勝どきビュータワー、7:晴海トリトンスクエア、8:晴海三丁目(バス停)、9:晴海埠頭(バス停)、10:旧晴海客船ターミナル、11:都立晴海ふ頭公園、12:ほっとプラザはるみ前(バス停)、13:HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)、14:春海橋(バス停)、15:旧晴海鉄道橋、16:アーバンドックららぽーと豊洲、17:豊洲シビックセンター、18:豊洲市場、19:豊洲市場屋上緑化広場、20:K-MUSEUM(共同溝展示館)、21:夢の大橋、22:東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート、23:旧パレットタウン(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)
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築地本願寺はビジネスモデルの変革で、行列のできるカフェとお墓に

 スタートは午前9時、東京メトロ日比谷線の築地駅から。駅の出口すぐそばにあるのが「浄土真宗本願寺派築地本願寺」だ。編集部との事前打ち合わせでは「本願寺はとても有名なので、新しい紹介スポットがないのでは?」という話をしていたが、2017年、境内にある「築地本願寺インフォメーションセンター」に「築地本願寺カフェTsumugi」ができたことを思い出して立ち寄ってみた。実は22年11月に、同インフォメーションセンターがリニューアル。カフェは席数を増やし、仏教書などが読めるブックカフェとして様変わりしたのだ。

「浄土真宗本願寺派築地本願寺」(東京都中央区築地3-15-1)の本堂は、建築家の伊東忠太による古代インド様式などをモチーフとした設計で有名。門を入って左手に「築地本願寺カフェTsumugi」と合同墓がある(写真:日経クロステック)
「浄土真宗本願寺派築地本願寺」(東京都中央区築地3-15-1)の本堂は、建築家の伊東忠太による古代インド様式などをモチーフとした設計で有名。門を入って左手に「築地本願寺カフェTsumugi」と合同墓がある(写真:日経クロステック)
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 境内にカフェの屋外席のパラソルが並ぶ眺めは予想以上に違和感がない。人気メニューはおかゆに小皿を添えた「18品の朝ごはん」。「ティファニーで朝食を」ならぬ「築地本願寺で朝食を」を目当てに多くの善男善女が行列をなしていた。

 カフェ同様に人気なのがその隣にある合同墓。こちらも17年に募集開始して以来、予約が殺到しているという。礼拝堂を備えたお墓のマンションのようなもので、過去の宗教宗派を問わず受け入れている。ちなみに、カフェも合同墓も、15年の築地本願寺の代表役員交代以降に掲げられた、「人々の人生や暮らしに寄り添い心の安らぎを与える『開かれたお寺』を目指す」といった取り組みの一環という。

カフェに隣接する合同墓(写真の右手の建物)。納骨堂は地下の253m<sup>2</sup>に展開されており、個別保管2万4000柱、合同区画2万4000柱が収容可能。左手に見える建物が「築地本願寺カフェTsumugi」(写真:渡辺 圭彦)
カフェに隣接する合同墓(写真の右手の建物)。納骨堂は地下の253m2に展開されており、個別保管2万4000柱、合同区画2万4000柱が収容可能。左手に見える建物が「築地本願寺カフェTsumugi」(写真:渡辺 圭彦)
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市場は移転しても場外市場は相変わらず観光客で大にぎわい

 築地本願寺すぐそばの築地4丁目交差点に出る。交差点の角地にひときわ目立つビルが目に入る。「まるで隈研吾氏が設計したみたいなビルだなあ」と思う人も多いだろう。正解である。「築地KYビル」はまさに隈氏の設計によるものだ。以前は普通の複合ビルが立っていたが、17年に建て替えられた。1階は築地場外市場の一角として、「築地おもしろ市場」が築地共栄商業協同組合によって運営されている。

「築地KYビル」(東京都中央区築地4-7-5)は、木目のパターンを直接プリントしたアルミパネルを外装に用いて、下町の木造建築のイメージを付与した(写真:渡辺 圭彦)
「築地KYビル」(東京都中央区築地4-7-5)は、木目のパターンを直接プリントしたアルミパネルを外装に用いて、下町の木造建築のイメージを付与した(写真:渡辺 圭彦)
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 築地4丁目交差点の南側にあるのが「築地場外市場」だ。民間の5団体が集まって構成された商店街で、18年に東京都中央卸売市場の築地市場が豊洲に移転した後も営業を続けている。プロのほか、一般の買い物客にも対応するとあって、多くの観光客が訪れている。取材日が22年12月中旬ということもあり、年末に向けての買い出しに訪れた人たちのほか、新型コロナウイルス禍で一時期は激減した外国人観光客の姿も数多く見られた。