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 中央区の築地、勝どき、月島、晴海、江東区の豊洲、青海、有明といった東京の湾岸エリアを巡る、建築の解体と再生の現場への散歩。前編では築地の市場跡付近からスタートして、勝どき、晴海など住宅地へと生まれ変わろうとしているエリアまで歩いた。後編では、さらに足を延ばして、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックの選手村の跡地、物流や製造の拠点であった豊洲のかつての記憶を残すスポットなどを経て、築地から移転した豊洲市場方面へ。さらに、有明の過去に取り残された名建築や、青海の取り壊しを待つ総合商業施設などを見て回る。いずれなくなってしまう建築の「いま」と、再生を果たそうとしている建築の「いま」。まさに見るなら“今”しかない。

時代に翻弄された東京湾岸エリアをたどる散歩ルート
 

1:浄土真宗本願寺派築地本願寺
2:築地KYビル
3:築地場外市場
4:築地市場跡
5:勝鬨橋
6:勝どきビュータワー
7:晴海トリトンスクエア
8:晴海三丁目(バス停)
9:晴海埠頭(バス停)
10:旧晴海客船ターミナル
11:都立晴海ふ頭公園
12:ほっとプラザはるみ前(バス停)
13:HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)
14:春海橋(バス停)
15:旧晴海鉄道橋
16:アーバンドックららぽーと豊洲
17:豊洲シビックセンター
18:豊洲市場
19:豊洲市場屋上緑化広場
20:K-MUSEUM(共同溝展示館)
21:夢の大橋
22:東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート
23:旧パレットタウン

※散歩時間の目安:およそ6時間30分(見学時間や休憩などを含む、取材の際の時間)。1~7は前編で、8~23は後編で紹介。一部、バス停のポイントを含む

時代に翻弄された東京湾岸エリアをたどる散歩ルート。1:浄土真宗本願寺派築地本願寺、2:築地KYビル、3:築地場外市場、4:築地市場跡、5:勝鬨橋、6:勝どきビュータワー、7:晴海トリトンスクエア、8:晴海三丁目(バス停)、9:晴海埠頭(バス停)、10:旧晴海客船ターミナル、11:都立晴海ふ頭公園、12:ほっとプラザはるみ前(バス停)、13:HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)、14:春海橋(バス停)、15:旧晴海鉄道橋、16:アーバンドックららぽーと豊洲、17:豊洲シビックセンター、18:豊洲市場、19:豊洲市場屋上緑化広場、20:K-MUSEUM(共同溝展示館)、21:夢の大橋、22:東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート、23:旧パレットタウン(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)
時代に翻弄された東京湾岸エリアをたどる散歩ルート。1:浄土真宗本願寺派築地本願寺、2:築地KYビル、3:築地場外市場、4:築地市場跡、5:勝鬨橋、6:勝どきビュータワー、7:晴海トリトンスクエア、8:晴海三丁目(バス停)、9:晴海埠頭(バス停)、10:旧晴海客船ターミナル、11:都立晴海ふ頭公園、12:ほっとプラザはるみ前(バス停)、13:HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)、14:春海橋(バス停)、15:旧晴海鉄道橋、16:アーバンドックららぽーと豊洲、17:豊洲シビックセンター、18:豊洲市場、19:豊洲市場屋上緑化広場、20:K-MUSEUM(共同溝展示館)、21:夢の大橋、22:東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート、23:旧パレットタウン(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)
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晴海は「埋め立て地の果て」から「東京の真ん中」へ

 前編では、東京メトロ日比谷線の築地駅を午前9時にスタート。築地から勝鬨橋を渡り、勝どき、晴海と晴海通りを中心に歩いた。写真を撮りながら進み、晴海トリトンスクエアあたりで休憩とした。

 休憩後は、晴海3丁目交差点にある、都営バスの「晴海三丁目」停留所から「晴海埠頭」行きに乗り込む。晴海のなかでも東京五輪の選手村跡地付近は、再開発の工事が続いていることから、歩道が整備されていないエリアがある。安全のために、バスを利用したい。

 バスの終点で見えるのは、「旧晴海客船ターミナル」の解体現場だ。晴海客船ターミナルは1991年に開業した施設だ。もともとここには、64年に開設された晴海船客待合所があったが、東京港開港50周年を記念して91年に建て替えられた。

晴海客船ターミナル(東京都中央区晴海5-7-1)は1991年に使用が始まった。だが、1993年のレインボーブリッジ完成以降、立ち位置が難しくなってきた。当時、大型クルーズ客船のサイズは大型化が進み、レインボーブリッジを通過できないケースが出てきたのだ。そのため、大型化する外国客船はレインボーブリッジより内側にある晴海客船ターミナルへの寄港を諦め、横浜港にシフトしていった。完成して早々、時代に置いていかれてしまったのだ。そして老朽化したこともあり、建物はついに終わりを迎えた(写真:渡辺 圭彦)
晴海客船ターミナル(東京都中央区晴海5-7-1)は1991年に使用が始まった。だが、1993年のレインボーブリッジ完成以降、立ち位置が難しくなってきた。当時、大型クルーズ客船のサイズは大型化が進み、レインボーブリッジを通過できないケースが出てきたのだ。そのため、大型化する外国客船はレインボーブリッジより内側にある晴海客船ターミナルへの寄港を諦め、横浜港にシフトしていった。完成して早々、時代に置いていかれてしまったのだ。そして老朽化したこともあり、建物はついに終わりを迎えた(写真:渡辺 圭彦)
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都立晴海ふ頭公園(東京都中央区晴海5丁目)は、東京港晴海埠頭の南西端に位置する。レインボーブリッジや東京タワーなどを一望できることから、同公園から見える景色は、中央区観光協会の「夜景八選」に選ばれた。2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックでは選手村の一部として使用され、終了後にリニューアル。筆者の記憶では、以前は芝生と植栽程度で少し寂れた雰囲気があったことから「埋め立て地の果て」という印象だった。だが、リニューアル後は、周辺の再開発に合わせ、遊具などを備えたハイソな雰囲気の公園として生まれ変わった(写真:渡辺 圭彦)
都立晴海ふ頭公園(東京都中央区晴海5丁目)は、東京港晴海埠頭の南西端に位置する。レインボーブリッジや東京タワーなどを一望できることから、同公園から見える景色は、中央区観光協会の「夜景八選」に選ばれた。2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックでは選手村の一部として使用され、終了後にリニューアル。筆者の記憶では、以前は芝生と植栽程度で少し寂れた雰囲気があったことから「埋め立て地の果て」という印象だった。だが、リニューアル後は、周辺の再開発に合わせ、遊具などを備えたハイソな雰囲気の公園として生まれ変わった(写真:渡辺 圭彦)
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 ポストモダン建築の代表的な建築家、故竹山実氏(1934~2020年)の手によるこの建物は、その特徴ある意匠により、近年は、特撮作品のロケ地となったり、コスプレイベントの撮影会会場として使用されていたりして、その筋の人々には有名なスポットだった。かつて晴海にあった「東京国際見本市会場」(1959~96年)では、同人誌即売会のコミックマーケットが開催されていたことを考えると、「晴海はサブカルチャー(サブカル)文化と親和性のある地域なのだろうか」と、ふと思う。

 しかし2020年9月、江東区青海に新たな「東京国際クルーズターミナル」がオープン。これに合わせて、長い間、東京湾のシンボルでもあった晴海客船ターミナルの建物は、22年2月20日に閉館し解体されることとなった。跡地は、東京国際クルーズターミナル第2バース(船舶が停泊して作業する水域)が設置されるまでの間、代替の客船受け入れ施設を整備して活用する予定だ。

オリンピックに2度名乗りを上げた晴海

 潮風に吹かれたあとは、「晴海埠頭」停留所から「ほっとプラザはるみ前」まで、距離は短いが再び都営バスで移動しよう。この一帯は21年の東京五輪の選手村跡地で、現在は「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」という名称の、高層マンションを中心とした再開発プロジェクトが進められている。約18ヘクタールの再開発事業エリアに、分譲住宅や賃貸住宅のほか商業施設など、24棟の建設が進行中。住宅戸数は5000戸を上回る規模だ。工事車両が行きかう道路を歩くのは危険なので、様子を見たい人はこの停留所で降りるとよいだろう。

「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」(東京都中央区晴海5丁目)の様子。筆者にとって、見渡す限り工事現場という体験は初めてだ。街びらきの頃に、再度訪問して見比べてみたい(写真:渡辺 圭彦)
「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」(東京都中央区晴海5丁目)の様子。筆者にとって、見渡す限り工事現場という体験は初めてだ。街びらきの頃に、再度訪問して見比べてみたい(写真:渡辺 圭彦)
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 入居は24年3月以降となる見込み。完成すれば約1万2000人の暮らす住宅地となる。かつての「埋め立て地の果て」がえらい変わりようである。だが、その道のりは平たんではなかったようだ。HARUMI FLAGのプロジェクトが進められている場所は、東京国際見本市会場の跡地で、これまでも再開発の話が挙がっていたのだ。例えば、16年に開催されるオリンピック・パラリンピックを東京に招致しようとしていた際には、メインスタジアムの用地として計画されていた。しかし招致に失敗し、再開発の計画は頓挫した。そんな歴史を振り返ると、いよいよ満を持して大規模な街づくりが始まったというわけだ。

 ちなみに停留所名にある「ほっとプラザはるみ」は、その目の前にある中央清掃工場のゴミ処理時の排熱を利用した温浴施設だった。現在は、大規模改修中だ。地域が住宅地として生まれ変わるのに合わせて、「晴海地域交流センター」として23年10月にリニューアルオープンする予定である。かつては、区内在住の一般利用者であれば250円からジャグジーなどを利用できたというだけに、しばらくの休館を、ちょっと残念に思っている住民も多いのではないだろうか。