2022年12月3~4日に福岡市で開催された情報ネットワーク法学会第22回研究大会。1日目の分科会 「マイナンバー制度の法的統制と政策」では、マイナンバー違憲訴訟や海外の番号制度の紹介などから、マイナンバー制度の課題とあるべき姿を取り上げた。政府がマイナンバーカードの利活用を推進するなかで、マイナンバーとマイナンバーカードの制度の分離について議論が交わされた。
マイナンバーは「メリットがない」「便利になっていない」
前提としてマイナンバー制度の課題については、内閣府が設置した「マイナンバーの利活用拡大のための検討タスクフォース」が2022年11月9日の第1回会合で取り上げている。例えば同会合でデジタル庁はマイナンバー制度に対する国民の懸念として、「個人情報の外部への漏洩」「なりすましなどのマイナンバーの不正利用」「国家による個人情報の一元管理」を挙げた。さらにマイナンバー制度に詳しい水町雅子弁護士は、マイナンバー制度の導入は国民や企業にとって「全然便利になっていない」「メリットがない」と指摘している。
またマイナンバーとマイナンバーカードは全くの別物だが、いまだに混同されがちだ。マイナンバーカードの券面にはマイナンバーが印字されているが、カードに搭載されているICチップにはマイナンバーの情報が記録されているわけではない。マイナンバーの利用は行政事務に限られるが、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を使ったオンライン本人認証サービスは民間に開放されている。
こうした現状を踏まえ、分科会ではマイナンバー制度とマイナンバーカード制度の分離について議論が交わされた。
まず福岡大学の実原隆志教授は「マイナンバー制度に対する法律上の規律が厳格とは言いがたい」と指摘した。その理由として、マイナンバーとひも付く個人情報の規律が法律上明記されていないことを挙げた。
さらに、マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)19条の特定個人情報の提供範囲について一部を政令に委任していることを「マイナンバー法の白紙委任ではないか」と指摘。マイナンバー利用を監督する立場にある個人情報保護委員会は、その設置経緯から「マイナンバー制度のためにつくられ、マイナンバー制度の広報も担う」(実原教授)ため、「マイナンバー制度に対する厳格な監督を期待しがたい」(同)とした。
また実原教授はマイナンバーとマイナンバーカードが混同されている現状を踏まえ、マイナンバー制度とマイナンバーカード制度を「制度として分けたほうがいい」「マイナンバーカードの券面にマイナンバーを印字しないほうがいい」と話した。その理由として、「マイナンバーカードとマイナンバー制度の関連性は、カードの券面にマイナンバーが印字されている点に尽きる。マイナンバーカードを使うほとんどの場合でマイナンバーそのものが使われない以上、名称も根拠の法律も別にしたほうがよい」と説明する。