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 日本製鉄はDX(デジタル変革)の一環として、データ活用の拡大に力を入れている。目指しているのは、個々の製鉄所で独自に培ってきたノウハウを全社へ横展開し、さらにAI(人工知能)をはじめとするデジタル技術と融合させることだ。製鉄所をはじめとする製造プロセス全体で日々収集されている各種のデータを集約・蓄積するとともに、それらのデータを分析などで利用しやすいよう整理。必要に応じて所望のデータを抽出・加工する。こうしたデータ活用を全社へと拡大していく。

 まずはデータ活用を促すため、基盤となるシステム群の整備を進めている。例えば製鉄所などの現場の状況を把握するため、IoT(インターネット・オブ・シングズ)センサーからのデータを集約する「NS-IoT」を開発した。併せて、そうして収集したデータを整理するシステムとして「NS-Lib」を構築した。

 NS-Libは米Talend(タレンド)のデータカタログや米Snowflake(スノーフレイク)のクラウド上で動作するデータベースを実装した。オンプレミス(自社所有)環境で利用中のOracle Databaseなどと組み合わせて、データカタログを収集・作成する。稼働環境はパブリッククラウドのAmazon Web Services(AWS)を利用する。

「NS-Lib」の活用イメージ
「NS-Lib」の活用イメージ
日本製鉄の資料を基に日経クロステック作成
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 2021年に検証および構築を始め、2022年5月にはデータの取り込みを開始。2025年までに社内の主要なデータベースとの接続を目指す。プロトタイプの検証では、1週間かけていた生産計画のスケジューリングを1~2日に短縮するなど、着実に成果を上げている。

 「NS-Libには我々の仕事のやり方を根本的に変える力がある」。日本製鉄の星野毅夫デジタル改革推進部長はNS-Libの重要性をそう語る。構築が完了できれば、社内の膨大なデータから必要なデータを検索し、部門や拠点をまたいだデータの閲覧・共有が可能になる。

 例えば、同じ品種の鉄鋼製品であっても、地区によって強度にばらつきがあった場合、製造プロセスのどの部分が影響していたのかを解析できる。「同じ品種の鉄鋼製品を各拠点で製造する際の実力をしっかり評価でき、さらに各拠点のレベルを上げられる」と日本製鉄の佐々木智之デジタル改革推進部上席主幹は期待を込める。

 「(日本製鉄が)保有する鉄鋼製品は約1万種ある。この粒度でずっとデータを管理して、様々な部門とデータを共有していくのは難しい部分があった」と振り返るのは日本製鉄の加藤大樹デジタル改革推進部上席主幹だ。一口に鉄鋼といっても、製造時に投入する添加物や製造プロセスなどに細かい違いがある。従来は製造の難しい鋼種など特定の品種に限り、精密な情報を共有していた。だが全1万品種で精密な情報の共有は難しかった。

データを営業に活用

 そのため1万品種を100品種ほどに仕分けし、営業や工場とやりとりをしていた。だが大きくまとめてしまうと、データの粒度を下げてしまう。データ活用を通じて、1万品種の一つひとつのデータを見られるようになれば、例えば営業部門がQCD(品質・コスト・納期)を踏まえて交渉の場で詳細を議論できるという。

 具体例を挙げると、鉄鋼製品の価格を適正に反映させたい場合だ。一般に鉄の強度を高くする場合、鉄に様々な元素を加えた合金を製造する。達成したい強度によって、追加する元素の品種や量が変わり、コストにも差が生まれる。そういった細かい部分をデータで可視化し、かかっているコストを適正に価格に反映させていく。これまで同様のコスト計算を実施するには多大な時間を割いていたが、データをNS-Libに集約して即座に活用可能な状態にすることで、時間短縮を図る。