全4318文字

 鉄道の運行計画はダイヤグラムなどの形であらかじめ決めてあるが、実際にはトラブルに対応して計画を臨機応変に変更している。さらに輸送需要は毎日同じではなく、本来は需要に合わせて最適な運行に変えるのが望ましい。そうして鉄道の利用が増えれば、相対的に人や物の移動によって生じる二酸化炭素(CO2)排出量も減る。

免許を持たない係員を乗務可能に

 東芝グループの東芝インフラシステムズ(川崎市)は鉄道に関するさまざまな技術開発を進める中で、運行を担当する人の支援を重点の1つとしている。運転士を補助するシステムとして、列車の前方検知装置を開発し、長野電鉄(長野市)と協力して実証実験を実施した。最終的には自動運転の実現を目指すが、当面は運転士以外の係員(免許を持たない)が運転台に乗務する形態へ適合させる*1

*1 IEC62267「自動運転都市内軌道旅客輸送システム(AUGTシステム)—安全要求事項」(JIS E 3802)における自動化レベルの定義「GoA2.5」(GoAはGrade of Automation)に相当する。GoA2.5では係員は緊急停止操作と避難誘導を担う。自動列車運転装置(ATO)を稼働させつつ運転士が乗務するGoA2は、国内では主に地下鉄で実施例があり、踏切のある線区でもJR東日本やJR九州で運用が始まっている。

 このシステムでは、まず列車の位置をGNSS(衛星測位システム)とジャイロ、加速度センサーで把握しておく。さらに、運転席にステレオカメラを設置して前方を撮影する。左右2枚の画像に写っている物体までの距離を視差によって計測し、同時にレールを認識して、レールの上で列車が通過時に専有する空間も把握(図1)。その空間の中に存在する物体について距離を算出し、係員を支援する。

図1 画像処理を応用した列車前方監視
図1 画像処理を応用した列車前方監視
緑色の枠(建築限界)の中にある支障物と、そこまでの距離を検知する。(写真:東芝インフラシステムズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 長野電鉄の協力を得たのは、冬季の積雪時を含めて、季節や気候によってカメラでの見え方が変わっても支障物を検知できるようにする目的があった。実際に車両を運用する中で試験し、一通りの成果を得た。実用化に向けて、さらに他の路線での検証を進める必要があるという。

 ステレオカメラによる監視技術は、自動運転以外の用途でも開発が進んでいる。例えば、線路設備に異状がないかを運転台から目視点検する作業の支援用途では、鉄道総研とNECが開発したシステムをJR九州が実運用している。踏切に設置して自動車や人を検知するシステムの運用も始まっている(別掲記事参照)。