日本国内での事業の成長を待たずに世界へと挑むテックスタートアップが相次ぎ登場している。海外進出の意欲が概して高くないとされる日本にあって、巨額調達などをテコに海外市場の攻略に乗り出す。製品への要求や商習慣の違い、異国での顧客開拓、屋台骨である日本事業との両立と、前途は険しい。気鋭のスタートアップの挑戦に迫る。
ベトナムのとある町工場。金属部品を手にした作業着姿の従業員たちが、講師の説明に耳を傾けていた。
良品率を高めるために気をつけるべきことは何か、効率的な材料調達方法は、材料や設備を配置する際の最適なレイアウトは……。講師が教えているのは加工品の生産管理や品質管理、コスト管理のノウハウだ。ときに現場で実際に部品を手にしながら、ときに教室で座学に臨みながら、従業員は真綿が水を吸うかのごとくものづくりのノウハウを吸収していく。
講師を務めるのは日本のスタートアップ、キャディの社員だ。同社は板金や切削といった加工を施す部品の製造受託事業を手掛ける。メーカーから部品の加工や製造を受託すると、キャディがパートナーとして組織した多数の協力工場の中から最適なところに発注する。
2017年創業のキャディは2022年3月、同社として初めての海外現地法人をベトナムのホーチミン市に設立。同法人を拠点に、現地の協力工場の開拓に乗り出した。冒頭のベトナムの工場は同社が組織する協力工場の1つだ。2022年11月には2番目の海外法人をタイのバンコク市に設立。日本を飛び出し、協力工場のネットワークを世界へと広げている。
単なるマッチングにあらず、QCDを自ら担保
「発注主とのインターフェースを備えたバーチャルファクトリー(仮想的な工場)」。キャディの加藤勇志郎代表は、同社の事業をこう説明する。仮想的な工場と名乗るのは、受託した加工・製造の案件を協力工場に丸投げするのではなく、キャディ自身が品質や納期に責任を負うからだ。
発注主から案件の図面データを受け取るとその内容を独自開発したシステムで自動的に解析し、「キャディ標準」の図面データへと翻訳。原価を計算し、組織している協力工場から最適なところを選んで仕事を任せる。協力工場における製造作業の進捗や成果物の検査、輸送に関してはキャディが担う。
「多品種の少量から中量の生産について、QCD(品質・コスト・納期)から納品までキャディが責任を負うことで、顧客は加工品の調達・生産を外部に集約でき、サプライチェーンにおける固定費を削減できる」(加藤代表)。
バーチャルファクトリー事業は、創業当初の事業を拡大・発展させてたどり着いたものだ。創業当初に手掛けていたのは発注企業と協力工場のマッチング事業。図面データを自動解析して7秒で工場をマッチングさせるスピードとするを売り物に、板金から機械加工、プレス加工、射出成型と製品分野を広げていった。
事業拡大の過程で、単なるマッチングを超えて「調達・生産のQCDを担保しつつ納品責任を負うサービス」(加藤代表)としてより付加価値を高めるべきだとの方針の下、システムの機能を拡充。2022年10月、一連のサービスを「CADDi MANUFACTURING」と名付けて提供し始めた。
「製造業において、調達業務には100年以上も大きな技術革新が起こっていない」。加藤代表はこう指摘する。設計にはCAD(コンピューター支援による設計)、製造にはロボット、販売にはAI(人工知能)と、それぞれにITによる技術革新が進んだ。