コミュニティー運営のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を手掛けるスタートアップ、コミューンの高田優哉最高経営責任者(CEO)の名刺には、海外進出の決意が表れている。単に英語で表記してあるだけではない。東京の本社オフィスよりも、米国オフィスのほうが上に書いてあるのだ。
「日本がメインで米国はおまけ、『いっちょかみ』してやるといった意識では海外進出はうまくいかない。間違っても米国ブランチ(支社)と言わないようにしている」。ささいなようでいて、目指す海外進出のハードルの高さを示している。同社は2021年11月に米国拠点を開き、2022年春から現地での活動を始めた。
コミューンの主力事業は企業向けのオンラインコミュニティー運営支援SaaSの「commmune」である。オンラインコミュニティーとは、企業が自社の顧客同士や企業と顧客の間で交流するためのWebサイトやスマートフォンアプリを指す。commmuneを使うと、コーディングなしのノーコードで、一通りのオンライン交流機能を備えるコミュニティーを開発できる。
具体的な機能は、メッセージや写真の投稿を通じた顧客同士の交流、企業からの製品情報やイベント情報の告知、質問と回答などだ。顧客層は、家電や食品、飲食といったB to C(消費者向け事業)、会計ソフトや専門商社などのB to B(企業向け事業)と幅広い。
FacebookやLINEといった既存のSNS(交流サイト)上でつくる企業ページとの違いは、コンテンツの蓄積が容易で顧客同士の継続的なつながりや長期にわたるサポートに適している点だ。タイムライン形式で古いコンテンツが流れていってしまうFacebookと異なり、コミューン上のコンテンツはストック型を採るため、検索や並べ替えで過去のコンテンツを探しやすい。製品の使い方やトラブルの対処法を探す際、新たに質問するだけでなく類似の投稿を探せるため、新規からベテランまで幅広い顧客が参加しやすいという。
同社がコミュニティー運営を通じて目指すのは、「カスタマーサクセス」と呼ぶ業務を支援すること。耳慣れない言葉だが、製品の活用や顧客(製品ユーザー)同士の交流を通じて、顧客の成功、つまり顧客が期待通りの成果を得たり目的を達成したりするための活動を指す。
顧客の要望を的確にくみ取り、課題を解決したり製品やサービスを改善したりする企業側の活動もカスタマーサクセスに含まれる。売り込むまでのプロセスに重点を置くCRM(顧客関係管理)や購入後のトラブル対応が主体のアフターサポートとは異なる活動だ。
企業にとってカスタマーサクセスに取り組む第1の目的はLTV(ライフタイム・バリュー、顧客生涯価値)の向上だ。顧客の満足度を高め企業への好印象や愛着を醸成すれば、製品を長く使ってもらえるようになるだけでなく、アップセル(単価の引き上げ)やクロスセル(併売)にもつなげやすい。継続課金するサブスクリプション事業に乗り出す企業の増加もあり、カスタマーサクセスへの注目が高まっている。
突然の米国進出宣言、「勝つには今しかない」
「来年から米国に進出します」。2021年秋、高田CEOは社員に突然告げた。ほどなく11月末には米国法人を登記。社員があっけにとられるほどのスピード感だった。