2022年は、おおよそ30年間衰退を続けてきた日本の半導体産業に、明るいニュースが久々に躍る1年となった。ハイライトは2021年10月に発表され、2022年4月に熊本県で始まった台湾TSMC(台湾積体電路製造)の工場建設と、同年10月に発表された2nm世代プロセスの最先端半導体量産を目指すRapidus(ラピダス、東京・千代田)の設立である。TSMCの熊本工場には約4000億円、ラピダスにはまずは約700億円を政府が支援する。
TSMCの熊本工場建設も、ラピダスの設立も、実は、経済産業省が日本の半導体復権のために描いたシナリオが具現化したものである。この経産省のシナリオを読み解いていけば2023年以降の動きをある程度見通すことができる。
経産省のシナリオを知るための文書が、2021年6月に公開した「半導体・デジタル産業戦略」である。この中では、(A)先端ロジック半導体(ハイエンド・ミドルレンジ)、(B)マイコン、(C)メモリー(DRAM、NAND)、(D)パワー半導体、(E)センサー、(F)アナログ、(G)半導体製造の「後工程」の高度化、という7項目についてそれぞれ取るべき方策が書かれている。このうち、2022年に動きが表面化してきたのが、(A)先端ロジック半導体(ハイエンド・ミドルレンジ)と(C)メモリー(DRAM、NAND)、(E)センサー、(G)半導体製造の「後工程」の高度化、である。
(A)先端ロジック半導体(ハイエンド・ミドルレンジ)に対して、この文書では「日本には先端ロジック半導体の製造基盤が存在していないが、今後のポスト5G やデータセンター等向けのハイエンド先端ロジック半導体の国内生産・供給能力の確保が必要である」「産業機械や自動車などに使用されるミドルレンジ先端ロジック半導体についても、(中略)国内生産・供給能力の確保が必要である」としていた。前者がラピダスを巡る一連の施策、後者がTSMCの熊本工場建設である。ラピダスでは2nm世代プロセスの最先端半導体、TSMCの熊本工場では20nm/28nm世代プロセスの半導体を造る注1)。
注1)12/16nm世代のFinFETプロセス技術による製造も担えるように強化すると2022年2月に発表している。
(C)のメモリー(DRAM、NAND)では、「国際的な価格競争・製造能力競争(大胆な投資競争)に負けないよう、国際企業連携による日本国内でのメモリー製造能力・量産体制をより一層強化することが必要である」としている。これに対しては、2022年にキオクシアや米Western Digital(ウエスタンデジタル)が三重県四日市市に整備するNANDフラッシュメモリーの生産施設や、米Micron Technology(マイクロンテクノロジー)が広島県に整備している最先端のDRAMの生産施設に対して政府が相次いで助成金を出すことを決定している。
(E)のセンサーについては、「日本の競争力を維持できるよう、研究開発・設備投資を支援することが必要である」とする。ここでのセンサーとは、主に、ソニーセミコンダクタソリューションズが世界的に高いシェアを持つ、CMOSイメージセンサーをターゲットにしているようだ。ここについては、TSMCの熊本工場の支援がその第1弾といえる。熊本工場は、TSMCとソニーグループ、デンソーの合弁によって設立された会社だからだ。熊本工場ではソニーセミコンのイメージセンサーのロジック部分を担う半導体を製造する計画である。
(G)半導体製造の「後工程」の高度化については「ロジックやメモリー、センサー等の複数チップの3次元積層し、1つのパッケージに高密度に組み込むことによる小型化(小面積化)、チップ間の配線距離の短縮による高速化と低消費電力化、さらには複数のパッケージを積み重ねることによる多機能化等の高性能化を目指していく取組(3D化プロセス、“More than Moore”)にも研究開発、製造基盤整備の面で力点を置くべきである」としている。ここについては、TSMCが茨城県つくば市に2022年6月に開設されたTSMCジャパン3DIC研究開発センターなどが、この戦略に合致する。
では、2023年には何が起こるのか。