「銀行の話を聞くぐらいなら歯医者に行った方がまし、とミレニアル世代の71%が考えている」――。7~8年前、米国におけるこんな調査結果が業界内をにぎわせたことがありました。歯医者を比較対象にしているあたりに少なからず恣意を感じますが、顧客と良好な関係を築くことが銀行にとっていかに難しいかを分かりやすく表現しています。
なぜ、このような話を持ち出したかというと、2023年は銀行が個人顧客との接点について真剣に再考を迫られる年になるとみているからです。発端となるのは、2023年4月にも解禁される見通しのデジタル給与。給与は銀行口座に振り込まれるもの、という常識が変わろうとしています。
キャッシュレスアプリが給与の受け皿に
労働基準法は労働者への給与を原則現金払いと定めています。1975年に銀行口座への支払いが正式に認められ、1998年には証券口座が加わりました。さらに2023年、キャッシュレスアプリが給与の受け皿として追加されます。
「今の銀行口座振込で十分」「給与をキャッシュレスアプリで受け取るのは何となく不安」という方も多いのではないでしょうか。実際、関係者の間ではスモールスタートになるという見方が大勢です。
ただし例えば、「給与の振込先を一部キャッシュレスアプリに指定すれば、かなりのポイント還元が受けられる」とすれば、どうでしょう。数万円程度であれば、普段使っているキャッシュレスアプリで受け取っても良いと感じるユーザーが一定数いるかもしれません。
キャッシュレス事業者にとって、給与を押さえる利点は計り知れません。ユーザーが銀行口座やATMからチャージする際に負担していたコストを圧縮できる上に、取扱金額は増加する公算が大きい。その恩恵を享受すべく、大手事業者がキャンペーンを打ち出しても不思議ではありません。
給与振込はある意味、これまで銀行に与えられた特権であり、個人顧客との貴重な接点でした。これが浸食される懸念が生じているわけです。同時に、目を配りたいトレンドが、昨今勃興してきたBaaS(Banking as a Service)という銀行にとっての新しいビジネスモデルです。
大型事例が登場したBaaS
BaaSとは、銀行が保有する預金、融資、決済といったバンキング機能を文字通りサービスとして事業者に提供すること。事業者はBaaSを活用することで、システムコストや規制対応コストを抑えた形で自社サービスにバンキング機能を組み込めるようになります。
銀行はこれまで個人向けであれ法人向けであれ、直販モデルのサービスがほとんどでしたが、BaaSは事業者を介した間接モデル。新しいビジネスモデルと表現したのは、そのためです。いわばエンドユーザーとの接点は、生活に密着したサービスを手掛ける事業者に任せ、銀行は機能提供に専念する構造と言えます。
2022年末、BaaSを活用した大型事例が姿を現しました。NTTドコモが同年12月12日に開始したデジタル口座サービス「dスマートバンク」です。競合であるKDDIやソフトバンクはグループに銀行を抱えているのに対し、NTTドコモは参入してきませんでした。そんな同社の背中を押したのがBaaSです。三菱UFJ銀行のバンキング機能を活用することで、預金口座の提供に踏み切った格好です。