新型コロナウイルス禍への時限措置として実施されていた「初診からのオンライン診療」が恒久化されるなど、2022年は医療・健康領域のデジタル化が加速した。このデジタルヘルス分野には米テック大手5社「GAFAM」(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの略)なども注目し、関連事業を拡大させている。
スタートアップをめぐる動きも活発で、大型の資金調達やIT企業による買収が見られた。2023年もこうした潮流は続き、デジタル化のさらなる進展やプレーヤーの多様化などによって業界が活性化し、新たな技術やサービスが次々と登場しそうだ。
運用が始まる電子処方箋
2023年、この流れを後押しする“イベント”がある。その1つが「電子処方箋の運用開始」だ。厚生労働省は2022年12月21日、電子処方箋管理サービスの運用を2023年1月26日に開始すると発表した。システムを導入した医療機関や薬局は同サービスを利用することで、電子処方箋の発行や電子処方箋に基づく調剤が可能になる。
患者側から見ると、これまで紙で受け取っていた処方箋が電子化されるとともに、本人が同意すれば複数の医療機関や薬局で処方・調剤された過去の薬の情報を医師や薬剤師と共有できるようになる。これにより、同じ成分の薬をもらうこと(重複投薬)や良くない薬の飲み合わせを防ぐことができ、安心・安全な医療につながる。
電子処方箋の運用で気になるのが、マイナンバーカードの普及状況である。電子処方箋の発行などは従来の健康保険証でも対応できるが、マイナンバーカードを健康保険証として使うと「さらに便利になる」(厚労省)。総務省は同カードの普及促進策「マイナポイント」を実施するなど、保有者の拡大を急いでいる。
その総務省は2023年1月6日、同カードの申請件数が1月4日時点で約8300万件に達したと発表した。2021年末時点で運転免許証を保有していた8190万人程度を上回ったという。マイナポイント第2弾の対象となるカードの申請期限が2023年2月末まで延長されたこともあり、申請件数が今後どこまで増えるのか注目が集まりそうだ。
冒頭で述べたGAFAMの一角、米アマゾン・ドット・コムの動向も大いに気になるところである。電子処方箋の運用開始に伴い、同社は日本において処方薬販売への参入を検討しているとの報道が2022年に話題となった。薬局を運営するわけではなく、同社のサイトを介して患者が薬局とやりとりし、同社の配送網を使って薬を集荷、患者の家まで届けるといった事業モデルが想定されそうだ。同社以外の企業も同様のサービスを始めることは可能である。ただ、既に多くの顧客を持つアマゾンがこのサービスに乗り出せば、業界内外に大きなインパクトを与えるに違いない。
ちなみに同社はオンライン診療「アマゾン・クリニック」を米国32州で開始すると2022年11月に発表している。顧客はメッセージ機能を備えるポータルを通して臨床医とつながり、アレルギーやニキビ、脱毛など20種類以上の一般的な疾患について相談でき、治療計画の提案や処方箋の発行などを受けられるとのことだ。