2022年は今後の放送業界の変革に関する様々な検討が進められた年となった。今後、さらなる検討や実証事業の伸展により、変革の道筋が徐々に明確になりそうだ。本稿では、放送業界の変革に関わる2022年の動向を振り返りつつ、「NHKのインターネット活用業務」「放送インフラ見直し」「制度改正」という3つの視点から2023年の放送業界を展望する。
NHKのインターネット活用業務はどう変わるのか
まず日本における放送の二元体制(公共放送と民間放送が併存する体制)の一翼を担うNHKの動向から見ていこう。NHKは2023年10月に地上契約と衛星契約ともに約1割の値下げを行う。約1割という値下げ幅は過去にはない最大規模になるという。人事面では2023年1月に会長の交代を行う。現会長の前田晃伸氏に代わり、日本銀行 理事などを務めた稲葉延雄氏が2023年1月25日付で会長に就任する。こうした変化がある中で、NHKはいまだに明確な方向性が定まっていない課題を抱えている。それはNHKのインターネット活用業務(動画配信など)の在り方だ。現在の放送法では、NHKのインターネット活用業務は任意業務という位置付けであり、必須業務である放送とは別の扱いとなっている。財源の面でも年間200億円が上限として定められている。NHKは経営計画において、「幅広い世代でインターネットの利用時間が増えてテレビの視聴時間との“逆転”が予想されるなど、メディア環境や視聴者行動が大きく変化している」などとした上で、「受信料で成り立つ公共メディアとして、こうした時代の変化に向き合い、視聴者・国民の信頼に応えるとともに、合理的なコストでの運営に努める」とし、インターネット時代への適応に意欲を見せている。
NHKのインターネット活用業務の在り方については、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」(放送制度検討会)が自らの下に設けた「公共放送ワーキンググループ」を通じて議論を行っている。同ワーキンググループ(WG)の第3回会合(2022年11月24日開催)で民放の業界団体である日本民間放送連盟(民放連)は、「NHKが必須業務化などを検討しているのであれば、その趣旨や業務内容を具体的に説明してほしい」「インターネット活用業務の必須業務化について検討するのであれば、財源および受信料徴収の問題をしっかりと議論し、結論を得ていく必要がある」とした。
2022年12月22日に開かれた公共放送WGの第4回会合でNHKは、「NHKが今後どういうふうにして公共放送としての役割を果たしていくのか、その全体像を示さない限り先に議論が進まないという意見もあった。NHKは出す考えはあるのか」という構成員からの質問に答える形で、「NHKとしては、何よりも視聴者国民の理解を得ることが大前提という立ち位置であり、公共放送WGにおける議論の深まりを期待するという立ち位置」と説明し、視聴者国民の考えを重視する姿勢を示した。
偏りなく様々な情報に接することでフェイクニュースなどへの一定の批判的能力を得ている状態を意味する「インフォメーションヘルス」(情報的健康)という言葉がある。情報空間としてのインターネットの存在感が高まる中で、国民視聴者からの受信料を主な収入源にするという民間メディアとは異なる立ち位置にいるNHKがインターネット上でどのようなサービスをどの範囲まで展開するかは、今後のインフォメーションヘルスの確保にも影響を及ぼす。そういった点から考えると、NHKが展開するインターネット活用業務の今後の在り方は、国民視聴者にとっても関わりがある。放送事業者などのメディア関係者のみならず、国民視聴者にとっても注目に値するトピックと言えそうだ。
公共放送WGは2023年前半に3回程度もしくは4回程度の会合を開き、同年6月頃に取りまとめを行う。WGの検討が進むにつれて、NHKのインターネット活用業務に関する今後の方向性も見えてくるだろう。