原子力発電所の建て替えや新増設の有力候補とされるのが「革新軽水炉」だ(図1)。大型軽水炉を改良して安全性を高めている。運転開始の目標時期は2030年代中ごろ。既存技術の延長線上にあるため成熟度が高く、発電単価も安価になると期待されている。
軽水炉には、大きく分けて「沸騰水型軽水炉(BWR)」と「加圧水型軽水炉(PWR)」がある。国内では、東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS、川崎市)がBWR、三菱重工業はPWRといった具合に、各社が別の方式で革新軽水炉を開発している*1。採用する具体的な技術には違いがあるが、それぞれの原子炉が目指す安全対策の方向性には、共通点がある。
*1 国内では日立GEニュークリア・エナジー(茨城県日立市)も改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)をベースにした革新軽水炉の検討を進めているが、具体的な製品名などは未発表。
その共通点として挙げられるのは、例えば[1]動的安全と静的安全を組み合わせた冷却システム、[2]炉心溶融で発生した燃料デブリを受け止めるコアキャッチャー、[3]事故時に放射性物質の外部放出を抑えるシステム、の3つを備える点だ。2011年に発生した福島第1原子力発電所の事故の教訓を反映している*2。
*2 福島第1原発の原子炉6基は全てBWR。東日本大震災による津波では1~4号機が電源を喪失し、冷却機能を失った。それに伴い1・3・4号機で水素爆発、1・2・3号機で炉心溶融に見舞われた。
静的安全システムを強化
東芝ESSの「iBR」を例に、革新軽水炉の特徴を見てみよう。iBRでは、BWRとして近年主流となっている「改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)」*3と同じ基本設計を採用しながら、安全対策を強化した。同社は「軽水炉史上最高の安全性を有しており、緊急時の避難が要らない」と自信を見せる。
*3 改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)
改良型のBWR。従来は圧力容器の外に設置していた冷却材ポンプを同容器内に設置して単純化するなどの改善が施されている。
同社によると、米国製PWRや従来のABWRと比べて、iBRでは炉心損傷事故の確率を100分の1程度に抑えられる*4。この数字は、「代表的なSMR(小型モジュール炉)1基と同じオーダーで、かつ複数の同SMRを組み合わせた電気出力が同程度の原子力発電所を下回る」(同社)という。
*4 発電所を1年間運転する間に炉心損傷が発生する確率を示した「炉心損傷頻度(CDF)」による比較。
目玉は「静的安全システム」の強化だ。iBRでは、ポンプで冷却水を循環するような従来の動的安全システムを多重化するのに加えて、動力が要らない冷却装置を組み合わせている(図2)。複数の発電機を設置して電源が喪失する事態を防ぐ一方で、仮に電源を喪失しても冷却を継続できる仕組みだ。
静的安全システムのうち、まず動作するのが「IC(非常用復水器)」だ。圧力容器内の蒸気を冷却プール内の熱交換器に導いて冷却する。既存の原発でも類似のICを備えたものはあるが、動作時間が短かった*5。iBRでは、大容量の冷却水をプールに用意することで、7日間にわたって冷却を継続する。
*5 例えば、福島第1原発の1号機が備えていた非常用復水器の場合、冷却できるのは約8時間だった。
この7日間について、同社磯子エンジニアリングセンター原子力システム設計部システム計画担当マネジャーの青木保高氏は、「非常時にも現場の担当者が余裕をもって対処できる時間を確保した」と趣旨を説明する。