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2023年は日本にとっての「量子コンピューター元年」になる。国産ハードウエアの実機が初めて稼働するからだ。量子コンピューターの開発は米IBMや米Google(グーグル)などが先行するが、日本も追い上げを図る。量子コンピューターの構成部品には日本の中小企業の製品が多く使われていることも見逃せない。本特集は、現在最も開発が進んでいる超電導方式に焦点を当て、量子時代到来のカギを握る技術に迫る。

 超電導量子コンピューターは従来方式のコンピューターとは大きく構造が異なり、非常にデリケートな量子ビットを制御する必要があるため、従来方式のコンピューターには存在しない部品や最先端の技術を要する部品を多く使用する。超電導量子コンピューターの開発者はこうした部品を作る能力を持った企業や研究機関と連携や共同研究を重ねながら実機を「手作り」し、試行錯誤しながら性能向上を目指している。

 超電導量子コンピューター実機そのものの開発では、日本はこれまで米国や中国に後れを取ってきた。一方で産業技術総合研究所の新原理コンピューティング研究センターの川畑史郎副研究センター長は「部品部材レベルにまで目を向けると、日本は強い」と指摘する。

 開発競争のさなかにある現在、多くの開発者は超電導量子コンピューターの細かな設計や使用部品までは公開しておらず、市場に分解検証できる実機があるわけでもない。だが既にトップクラスの性能を誇る海外製の実機に部品が搭載されていたり、共同研究を進めていたりする日本企業が確かに存在する。

 IBMが2021年6月、東京大学と同大浅野キャンパス内に量子コンピューターの研究開発拠点「量子コンピューター・ハードウェア・テストセンター」を開設したのが日本企業への期待の表れだ。センター内の超電導量子コンピューターは部品の置き換えが可能で、IBMと東大は様々な企業と共同でハード面における性能向上に向けて部品の開発や研究を進めている。

 IBMは超電導量子コンピューターの実機を米国以外に日本やドイツなどに置くが、ハード開発研究用の実機を置くのは日本のみだ。量子コンピューターが実用的な性能を発揮するには、現状数十~数百の量子ビット数を100万ほどに増やす必要があるとされている。東京大学大学院の仙場浩一理学系研究科特任教授は「量子コンピューターには非常に高い技術レベルが求められる部品が多くあり、今後欠かせない部品の小型化や性能向上は日本の得意分野だ」と話すとともに「ものづくりのポテンシャルを生かせる100年に一度の好機で、優秀な企業にぜひとも加わってほしい」(同)と期待を込める。

超電導量子コンピューター開発に貢献する日本企業

 超電導量子コンピューター開発に貢献する日本企業の中には、中小企業も多い。宇宙・天体や医療といったニッチな分野向けに、極低温環境で動作するニッチな部品を供給してきた企業が多いためだ。

表●超電導量子コンピューターの主要部品とその開発メーカー
(作成:日経クロステック)
部品部品の役割日本の企業や研究機関海外競合
超電導量子ビットチップ演算素子である超電導量子ビットを搭載理化学研究所、富士通米IBM、米Google、中国アリババ集団など
制御装置量子ビットの制御や読み出しなど大阪大学、キュエル米Keysight Technologiesなど
低雑音アンプ量子ビットの信号を低ノイズで増幅日本通信機スウェーデンLow Noise Factory など
低雑音電源ノイズの発生を抑えながらアンプなどの部品に電源を供給エヌエフ回路設計ブロック
配線ケーブルマイクロ波信号を伝送コアックス
配線コネクター各部品や温度帯をまたぐ配線などを接続日本航空電子工業、川島製作所
希釈冷凍機量子ビットが動作する極低温環境をつくり出すアルバック・クライオフィンランドBluefors、英Oxford Instrumentsなど