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 2023年1月、国際宇宙ステーション(ISS)から1機の人工衛星が宇宙空間に放出された。「OPTIMAL-1」と名付けられたその衛星は、サイズがCubeSat(キューブサット)規格で「3U」(寸法は10cm×10cm×34cm、重さ3.9kg)という、超小型の国産品である(図1)。東京大学発の衛星開発のスタートアップである、アークエッジ・スペース(東京・江東)などが共同で開発した。

図1 「OPTIMAL-1」のモックアップ
図1 「OPTIMAL-1」のモックアップ
3Uの超小型衛星である。右端の金属の棒が出ている部分がLoRaのアンテナ。CES 2023のトライポッド・デザインのブースで撮影(写真:日経クロステック)
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 OPTIMAL-1は今後、複数の技術実証を予定しているが、中でも注目されるのが、「衛星IoT(Internet of Things)」として世界初となる取り組みをする点だ。端的に言えば、携帯電話網のみならず、電力インフラもない山岳地帯や密林などの異変をセンシングし、その情報を衛星経由で取得して状況を常時監視するプラットフォームを提供する。

 そのためにOPTIMAL-1は、920MHz帯の周波数を使い、免許が不要な特定小電力無線(LPWA)の一規格である「LoRa」に対応した通信機能を搭載する。LoRaは、数あるLPWA規格の中でも最も普及が進んでいる。

 実は、LoRaの通信機能を搭載した衛星はこれまでにもあった。今回新しいのは、主に地上局である。エナジーハーベスティング技術の一種である「超小集電(MPC:Micro Power Collection)」を使って電気がない場所で発電するとともに、センサーを駆動して状況を監視し、そのデータをLoRaで衛星に送信する。

 MPCは、土壌や海水、淡水、植物、生体、コンポスト(堆肥)などさまざまな自然物を媒体(電解質)として、集電材(電極)を介して、微小な電気を収集する技術である。媒体は“地産地消”ができる。

 もちろん、電力インフラがない場所でも、太陽電池があれば発電はできる。しかし、MPCは太陽電池と比較して以下の長所を持つ。1.天候や時間帯に左右されずに継続的に電力が得られる、2.木が生い茂って太陽光があまり届かない森林の地面などでも発電する、3.太陽電池はパネル表面の汚れなどに対する定期的なメンテナンスが必要だが、その手間が不要、などである。

 「アマゾン川流域の森林や奥地などでは携帯電話網も電力インフラもない。さらに太陽電池も使えない。そうした場所は世界に数多くあり、こうした衛星IoTのニーズは高い」とアークエッジ・スペースCEO(最高経営責任者)の福代孝良氏は話す。災害監視や気候変動など環境変化のモニタリングなどに使える。