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 パナソニックホールディングスは2023年1月に開催されたテクノロジー見本市「CES 2023」(2023年1月5~8日、米ラスベガス)で、同社が2022年に発表した新たな環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」を改めてアピールし、ブースでの展示も環境対策技術を中心に据えた。具体的には、次世代の太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池(PSC)や、「グリーン水素」を製造するための水電解装置のプロトタイプなどを展示した。国内報道陣向けのラウンドテーブル(質疑応答会)に臨んだ、同社執行役員グループCTO(最高技術責任者)の小川立夫氏の発言を抜粋して紹介する(図1)。

図1 CES 2023のプレスカンファレンスに登壇した小川氏
図1 CES 2023のプレスカンファレンスに登壇した小川氏
中央がパナソニックホールディングス執行役員グループCTOの小川立夫氏。「Panasonic GREEN IMPACT」などについて説明した(写真:日経クロステック)
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ペロブスカイト太陽電池における御社の競争優位性をどうみているのか。

 ペロブスカイト太陽電池の最大の特徴は、印刷技術による塗布で造れる点にあり、大面積でフィルム状にもできる。従来のシリコン(Si)系太陽電池を設置できる場所が、建物の屋上や地面などに限定されるのに対して、ペロブスカイト太陽電池は垂直な壁面や重量物を保持できない面などに自由な形状で付けられる。最もインパクトが大きいのは、これまでシリコン系太陽電池が使えなかった建材への応用だ。

 例えば、断熱ガラスの内層にシリコン系太陽電池のパネルを貼って発電する製品があるが、コストがものすごく高い。そこにペロブスカイト太陽電池を使えばかなり安く造れる。

 パナソニックは長年、有機ELディスプレー(OLED)を製造するためにインクジェット技術を開発してきた。この技術を応用すれば、ペロブスカイト太陽電池を大面積に均一、かつ高品質に塗布できる。現在、メートル角以上を製造できる試作ラインを構築中だ。かなり早期に、大面積で高効率の太陽電池を造れると考えている。

 この技術領域は競争が激しくなっている。現状、数cm角で高い変換効率をうたっている企業はたくさんあるが、当社は30cm角という大きいサイズで世界一の変換効率(17.9%)を実現している。これは均一に造り、封止する技術を持っているためだ。当社では、変換効率が高い発電層を造るだけではなく、インクジェットなどの技術を応用しながら、コスト競争力が高いデバイスの開発で勝負していく。

ペロブスカイト太陽電池の事業性をどうみているのか。

 事業規模という観点では、どのような形態で顧客に提供するかによる。フィルムだけなのか、あるいは建材を扱うパートナー企業と組んで建物の壁面に埋め込んだりする製品を開発するかで変わってくる。それでも将来は、最低でもおそらく4桁億円(1000億円単位)のビジネスに成長すると思うし、材料の提供だけでも数百億円のビジネスにある程度の時期に到達することが見えている。

ペロブスカイト太陽電池は実用化にまだ時間がかかると聞いているが、技術課題をどう捉えているのか。

 課題はいくつかある。まずは、大面積で均一に造る技術を実証する必要がある。2つめは、信頼性の問題。水や酸素など劣化の原因となる物質をいかに遮断するかが重要だ。この点については、封止ガラスの製造プロセスを活用すればヘロブスカイト層が劣化しない建材を造れると考えており、パートナー企業と検討を進めようとしている。

 3つめは、ペロブスカイト太陽電池製の建材パネルを実際に施工して電気を取り出し、安全な運用を担保することだ。電気的に安全に接続したり、取り外したり、さらにメンテナンスを安全に実施したりすることが必要で、これは実際にやってみないと分からない部分もある。電気設備や建材の安全性・信頼性に詳しいパートナー企業と協力し、早期に標準規格を造りたい。

具体的に、実用化の時期はいつごろになりそうか。

 現段階では具体的な時期は明言できないが、小さい面積なら屋内発電用で3年以内だろう。一方、建材向けはもっと先になる。