2023年に向けて企業が備えておくべき「想定外」は何か。ロシアによるウクライナ侵攻は避けられるとの見方が2021年時点では大勢だったが、2022年には現実となった。日本企業が目を背けるべきではない最悪のリスクが東アジアでの有事だ。
中国が「核心的利益」と主張する台湾への武力侵攻や、核武装に乗り出す北朝鮮の軍事行動など、東アジア有事は現実に起こり得るのか。
専門家でも見方は分かれる。中国はロシア以上に西側諸国と経済的結びつきが強く、習近平政権は米国政権との話し合いを維持している。NTTデータ経営研究所の岡野寿彦シニアスペシャリストは「ここ数年で起こる可能性は低いだろうとの見方が強い」と指摘する。一方で逆の意見もある。デロイトトーマツグループの土井秀文マネージングディレクターは「日本が防衛費を増額するなど米国とその同盟国が対応能力を高めようとしており、中国の現政権には『むしろ1~3年以内が台湾侵攻の成功確率を高める好機だ』と映っている、との指摘が安全保障の専門家から増えている」と話す。
重要インフラにサイバー攻撃
もし現実に台湾への軍事侵攻が起これば、同盟関係にあり米軍の基地がある「日本は攻撃対象になる可能性が高い」(デロイトトーマツグループの土井氏)。その際には「武力だけでなくサイバー攻撃や情報操作、情報詐取など、あらゆる手段を駆使したハイブリッド戦争を日本に仕掛けると想定すべきだ。日本企業も攻撃対象になる」とEYストラテジー・アンド・コンサルティング Strategic Impact Unitの西尾素己パートナーは指摘する。
中国軍関係者はこうした手法を「超限戦」と呼び2000年前後から研究してきた。電力や交通、通信、金融などの基幹インフラ産業へのサイバー攻撃に警戒が必要だ。マスメディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)なども破壊や情報操作の対象になり得る。「狙った民間企業にマルウエアを潜伏させるような、超限戦の前哨戦は既に始まっていると見るべきだ」(西尾パートナー)。
もし中国からの事業撤退や邦人退避、中国企業との取引停止などが起こった場合に、どう影響を最小化できるのか。備えや準備は極めて困難だが、最悪のシナリオの想定が求められる。