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 筆者はレガシーシステムをモダナイゼーションするためのコンサルティングを生業にしている。モダナイゼーションの手法には、大きく分けてリホスト、リライト、リビルドの3つがある。リホストはプログラムはそのままでプラットフォームを移行する手法、リライトはプログラムを別のプログラミング言語で書き換える手法、リビルドは新しいシステムを構築して既存のデータを移行する手法だ。筆者はこのうちリホストとリライトを担当している。

 筆者はこれまでモダナイゼーションの多くのプロジェクトを経験しており、そうした経験から得たものを、現場で奮闘する当事者に何とか伝えられないかと常に考えてきた。そこで、実際の事例を基にわかりやすいよう脚色を加え、ストーリー仕立ての「事件簿」の形で紹介することを思い立った。読者が直面する課題を解決するヒントになればと思う。

 今回紹介するのは、急激に成長するeコマース(電子商取引)を支えるレガシーシステムのモダナイゼーションで起こった事件だ。

ビジネス拡大のための脱メインフレームで起こった事件

 事件の舞台になったのは、工具や部材を実店舗で販売していた企業だ。あるとき、実店舗だけでの販売に危機感を持った社長が「これからはインターネットだ。eコマースにシフトして事業を一気に拡大するぞ」と号令をかけた。規模は小さいが国内向けのeコマースで先行していた老舗企業を買収し、グローバル市場を視野にサービスを急拡大することになった。

 ところが、この企業の販売管理システムは国産メインフレームのレガシーCOBOLシステムが支えており、トランザクションの急拡大に追従できなくなってきた。実店舗での販売を中心とした事業を担ってきた社員にとって、eコマースは未知の領域であり、買収した企業のeコマース業務とシステムを理解した開発保守人員は、強力な戦力だった。そこでこれを機に、脱メインフレームに向けて、高可用性で高トランザクションに耐えうるインフラに移行することになった。

 その企業には、クラウドサービスへの移行やJavaによるシステム開発の経験を持つ若手のリーダーがいた。そのリーダーは、30年以上前のメインフレームの上に構築されたCOBOLシステムであっても、クラウド上に簡単にリビルドできると考えた。移行に向け、買収した企業のeコマース業務とシステムを理解しているベテランメンバーと打ち合わせを繰り返した。

 打ち合わせの中で、さまざまな規制の存在や利用者へのきめ細かい対応の必要性が判明し、自社だけでリビルドするのは困難だという結論になった。そこでeコマースに強いシステムインテグレーターに500万ステップ相当のリビルドの概算見積もりを依頼した。回答は「ざっと5年間、1万人月」だった。

 これを経営層に報告したところ、社長の逆鱗(げきりん)に触れた。「何を悠長な話をしているんだ!」。eコマースに切り替えて事業を一気に拡大しようとしている社長にとって、5年もかかるような計画は到底容認できるものではなかった。