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日経クロステックの担当記者が2022年の携帯電話業界を振り返り、2023年を展望する座談会の第5回。今回と次回は、2022年に社会問題として浮上した通信障害をテーマに取り上げ、業界として求められる対応について議論した。

日経クロステック堀越功 2022年は通信障害が社会問題として浮上しました。KDDIが2022年7月に起こした大規模通信障害は発生から復旧まで60時間超を要したほか、物流や自動車、行政、金融など多岐にわたる分野に影響を及ぼすなど、大きな社会的インパクトがありました。

 総務省は報告が必要となる通信障害を集計しており、ここに来て件数が増えています。2021年度は6696件と2018年度に比べて500件ほど増えていました。KDDIの大規模通信障害をはじめとして、行政指導を受けたNTT西日本や楽天モバイルなど、利用者や社会にインパクトを与える事故が増加傾向にある点も課題です。

 2022年夏以降、「電気通信事故検証会議(以下、事故検証会議)」と「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(以下、ローミング検討会)」という通信障害に関する総務省の有識者会議に参加することになり、制度整備の視点からこの問題に向き合うようになったのはよい機会でした。

 事故検証会議では、KDDIやNTT西日本の重大事故など、個別の通信障害の原因や背景を深掘りし、今後の教訓を洗い出す作業を進めてきました。ただ個別の事象を検証したところで、通信障害はなかなか減りません。このため事故検証会議では2022年12月末から、業界横串で通信障害の背景にある構造問題を探ろうと新たな検証作業を始めています。具体的には各社の新規設備に関するリスクの洗い出し方法や、ヒューマンエラーを防ぐための取り組み、想定外の事象が発生した場合の対応方法などを、通信事業者各社にヒアリングしています。

 残念ながらヒアリングの内容は非公開ですが、各社の障害対策のアプローチは気づきも多く、業界全体に展開できたら価値が高いノウハウもあります。事故検証会議ではヒアリングの内容を踏まえ、現在の通信設備の技術基準や管理規定の見直しなども視野に入れて、2023年初頭から集中的に議論を進めています。

日経クロステック高槻芳 各通信事業者のインフラ品質は競争軸そのものですが、ことインシデント対応に関していえば、ぜひ風通し良く、積極的に共有してもらいたいところです。それと、通信業界に閉じた取り組みだけで十分なのかどうか、という疑問もあります。現代の通信網は回線交換ベースだった昔の電話網と全く異なり、もはやクラウドコンピューティングなどと同じ「ITインフラ」になっていますよね。

堀越 先日、事故検証会議とは別に、ソフトバンクの新たな5Gコアネットワーク(5GC)の研究開発の取り組みを取材しました。非常に面白い内容で、携帯電話ネットワークをできる限りWebシステムのようにスケーラブルにできないかという取り組みです。

 昨今の大規模通信障害の原因としてよくあるのが、メンテナンス作業中のささいなミスが、ドミノ倒しのようにどんどん影響が拡大し、収拾がつかなくなってしまうケースです。携帯電話ネットワークでこのような事態が起こりやすい理由は、ネットワーク内の認証系やモビリティー管理などのノードが、複数分散して端末の情報などを保持しているからです。いわゆる「ステートフル」な状況です。

 各ノードの責任範囲が大きく、しかもノード間で情報の整合性を取らないといけないので、携帯電話ネットワークは内部で多数の制御信号が飛び交います。あるノードで故障などが発生した場合、その他のノードが整合性を取るために制御信号の問い合わせを繰り返し、結局それが雪崩のような信号増となります。これが最近の大規模通信障害の多くで見られるパターンです。

 ソフトバンクは、このような携帯電話ネットワークの課題を解消するため、5GCの構成を抜本的に見直すという研究開発を進めています。具体的には5GCをWebシステムのように「ステートレス」化し、5GCを端末ごとに仮想的に用意することで障害の局所化につなげるようなアプローチです。まだ研究が始まった段階で、実装に向けては標準化との整合性やマルチベンダー構成が難しいなど様々な課題があります。しかし携帯電話ネットワークの本質的な課題にチャレンジしていて面白いですね。

高槻 基地局までの仮想化や複数のベンダーの基地局製品を組み合わせられる「Open RAN」の台頭も、ITの進化と軌を一にしているように見えます。それを考えますと、ネットワークのつくり方はもちろんのこと、運用やインシデント対応などについても外部の発想をうまく取り入れるのが1つの手かもしれません。