日経クロステックの担当記者が2022年の携帯電話業界を振り返り、2023年を展望する座談会の第6回。前回に続き、2022年に社会問題として浮上した通信障害をテーマに、事業者間ローミングやスマホ衛星通信の行方について議論した。
日経クロステック高槻芳 前回の議論では、障害は必ず起こるもので、ゼロにすることは基本的に不可能という点を指摘しました。とはいえ通信事業者は、社会インフラと化す通信サービスを維持するために「最悪の事態」を踏まえた備えが求められます。
具体的な対策としては、通信障害時に他社ネットワークを利用できるようにする「事業者間ローミング」や、1台の端末で複数回線を利用する「デュアルSIM」なども想定されていますね。
日経クロステック堀越功 KDDIの大規模通信障害を契機として、東日本大震災以降10年以上にわたって進展していなかった非常時における事業者間ローミングの議論が一気に動き出したのは、個人的にはとてもよかったと考えています。2022年末に基本的な方向性がまとまりましたので、2023年は実装に向けて細部を詰めていくことになります。
構成員として参加する「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(以下、ローミング検討会)」でも繰り返し述べていますが、事業者間ローミングは大規模通信障害や災害が発生した時など全てをカバーできる手段ではありません。事故を起こした事業者の加入者データベースが落ちた場合、事業者間ローミングでは救済できません。事業者間ローミングに加えて、デュアルSIMや継続検討になった「緊急通報の発信のみ」方式などを使い分けていく必要があります。実装に向けてはまだまだ詰めなければならない項目は多いですね。
デュアルSIMの実装に向けた意外な課題
日経クロステック榊原康 デュアルSIMについては水面下で実現に向けた議論が進んでいますが、ある携帯大手幹部は「結局、2つの電話番号になってしまうので使い勝手が悪く、これが課題になっている」と話していました。緊急用に別回線を保持していても、その電話番号を通話先の相手が知らなければ出てくれない可能性があります。SMS(ショートメッセージサービス)認証も1つの電話番号にしか対応していないサービスが多いので、障害発生時に登録を変更しなければなりません。複数の電話番号を登録できるように検討するとも話していましたが、認証手順など運用方法にも工夫が必要となりそうです。
一方、MVNO(仮想移動体通信事業者)からは携帯大手同士の連携に警戒する声も出ています。携帯大手の場合、バックアップ回線の相互融通で費用負担を抑えられる可能性が高いというものです。バックアップ回線を他社から借りる費用はかかりますが、自社回線を貸し出すことによる収入も得られます。初期投資はかかるものの、バックアップ回線の支出と収入が「いってこい」となれば、サービスをかなり安価に提供できるかもしれません。イコール・フッティング(同等性)の観点で問題となる可能性もありそうです。
堀越 電気通信事故検証会議の下に設置された「周知広報・連絡体制ワーキンググループ(WG)」にも有識者として参加しています。こちらも2022年12月に取りまとめ案を公表しました。大きなポイントは、これまで民間業界団体による周知広報のガイドラインとしていたのを、政府がガイドラインをつくるという新たな方向性を打ち出した点でしょうか。規制強化となるため「丁寧な説明、エビデンスの提示が必要」とWGでは発言したものの、現状の通信各社の周知広報を見ると規制強化もやむを得ないと捉えています。
政府ガイドラインは取りまとめ後、2022年度内をめどに整備していく計画です。ただその間も障害が発生する可能性があるので、政府ガイドラインの登場を待たず、通信各社は率先して利用者への説明責任を果たすように変わっていってほしいですね。
NTTドコモでは2022年12月の「spモード」の通信障害の時から、同社トップページの最上部に障害状況を表示するようになりました。このような利用者目線の分かりやすい情報開示を競うようになってほしいですね。