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日経クロステックの担当記者が2022年の携帯電話業界を振り返り、2023年を展望する座談会。最終回の今回は携帯大手3社の業績を取り上げる。足元ではARPU(契約当たり月間平均収入)の下げ止まりの兆しが見られ、2023年は官製値下げの影響がようやく一段落しそうだ。各社は業績回復と攻めの投資で「正のサイクル」へ転換できるか。

日経クロステック堀越功  2023年の注目点の1つは、NTTドコモとKDDI、ソフトバンクの携帯大手3社の業績回復です。この3社は2023年3月期を底にARPU反転の兆しが見えてきました。ソフトバンクの宮川潤一社長は2022年11月の決算説明会で、「ようやく魔の3年の終わりが見えてきた」と話していましたね。

 魔の3年とは、菅義偉前首相による携帯料金の引き下げ圧力に伴って、2021年春以降、携帯大手3社の業績が落ち込んだ時期のことです。携帯料金引き下げの影響から脱し、ARPUが上昇していくと、経営的には様々なオプションを考えられるようになります。2023年は攻めの投資など、各社から新たな一手が見えてくる年になりそうです。

 この魔の3年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々に行動制限がかかっていた時期とかぶります。この間、スマホを自宅のWi-Fi経由で使っていた人も多いと考えられます。ここに来て、行動制限が解除となり、人々の往来が戻ってきたこともARPU上昇に向けたプラス要因になりますね。

日経クロステック高槻芳  動画配信サービスの普及に伴い、いつでもどこでも大容量の通信回線を利用したい、というニーズは世界的に高まっています。足元ではサブスクリプション(継続課金) 型サービスの急拡大が落ち着いているものの、今後も「放送から配信へ」という大きな流れは続きそうです。象徴的だったのがサイバーエージェントのインターネットテレビ「ABEMA(アベマ)」。2022年のサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で全試合を無料配信し、いつどこにいても視聴できる点が受けて多くのユーザーを取り込みました。

 若年層を中心に、動画や画像がメインのSNS(交流サイト)を、情報検索ツールとして活用する動きが広がっているのも興味深いです。近年は「Instagram(インスタグラム)」がグルメや観光、ファッションなどビジュアルで判断したいコンテンツの検索に多用されてきました。最近はショートムービー共有サービス「TikTok(ティックトック)」で情報を検索するユーザーも少なくないと聞きます。「出先では動画コンテンツを見ない」という人も、検索はするでしょう。日常生活の様々なシーンでおのずとデータ通信量が増えていくのではないでしょうか。

日経クロステック榊原康  電車に乗ると、スマホで動画を視聴している人が多いことに驚きます。5G(第5世代移動通信システム)の浸透により、この流れはさらに加速するでしょう。

 ARPU上昇の期待は総じて高いものの、業績への影響は各社で異なる可能性があります。大手3社のうち、ソフトバンクはもともと契約者に占める大容量プランの比率が高いとされ、小中容量で安価なワイモバイルも好調なので、ARPU上昇という点ではこれが足を引っ張るような面があります。ワイモバイルで大容量プランを出せば完全なカニバリ(共食い)となってしまうため、これまで通り、ソフトバンクへのアップセルをいかに進められるかが鍵となりそうです。

 これに対してNTTドコモとKDDIは大容量プランの比率が低かった分、伸びしろが大きいとされます。KDDI幹部は段階制プラン「ピタットプラン」の契約者がまだ多く残っているため、アップセルにつなげられる可能性が高いと話していました。NTTドコモも似たような状況と想定されます。