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 地方銀行の勘定系システム共同化に異変が起きている。広島銀行が日本IBMからNTTデータ陣営に乗り換える方針を表明。各地の有力地銀を押さえ、盤石に見えたIBM陣営に綻びが生まれている。広島銀行が脱IBMを決めた背景には、共同化のパートナーであるふくおかフィナンシャルグループ(FG)との方向性の違いも見え隠れする。広島銀行のシステム担当役員が内幕を語った。

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 「我々としてはオープン化に向けた確固たる時間軸が欲しかった」。広島銀行の藤井顕一郎執行役員(持ち株会社のひろぎんホールディングス執行役員を兼任)は、横浜銀行が中心のシステム共同化である「MEJAR」への参画を決めた理由をこう打ち明ける。

広島銀行の藤井顕一郎執行役員
広島銀行の藤井顕一郎執行役員
(写真:日経クロステック)
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日本IBMの説得は実らず

 広島銀行は2022年11月、福岡銀行などを傘下に持つふくおかFGとのシステム共同化である「Flight21」から離脱し、2030年度をめどにMEJARに乗り換える方針を明らかにした。広島銀行と福岡銀行は2003年1月から基幹系システムの共同運営を始めており、地銀のシステム共同化の先駆けといえる。節目の20年を目前に、別々の道を歩むことを決めたことになる。

広島銀行は日本IBMからNTTデータのシステム共同化に乗り換える方針
広島銀行は日本IBMからNTTデータのシステム共同化に乗り換える方針
カッコ内は2022年9月末時点の預金量(単体)。合計額は広島銀行の移行後
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 広島銀行の決断を地銀やITベンダーの関係者は驚きを持って受け止めた。地銀同士が経営統合などをきっかけに、一方のシステム共同化に片寄せするケースは目立つが、「平時」に別のITベンダーが手掛ける共同化に乗り換えるのは珍しいからだ。Flight21は日本IBM、MEJARはNTTデータがそれぞれ支援している。

 しかも広島銀行は全国でも10本の指に入る規模を誇る有力地銀だ。預金量(2022年9月末時点、単体)は8兆6146億円。広島銀行の離脱は、日本IBMにとって痛手となる。日本IBMの孫工裕史執行役員IBMコンサルティング事業本部金融サービス事業部担当は「なんとかして(広島銀行の離脱を)避けようと我々も動いていた。できなかったのは非常に残念だ」と語る。

 逆に受け入れる側のMEJARやNTTデータにとって、広島銀行の参画は朗報だ。MEJARの顔ぶれは横浜銀行のほか、宮城県の七十七銀行、富山県の北陸銀行、北海道銀行、都内が地盤の東日本銀行の計5行で、東日本地域が中心。広島銀行の参画で、初めて関西以西の地銀を獲得する。

 横浜銀行の小貫利彦執行役員ICT推進部長が「あまり数が多すぎてもまとまらない」と語るように、MEJARは参加行の数を追う戦略をとっていない。そんなMEJARにとっても、中四国のトップ地銀で、既存の参加行と営業地盤が重ならない広島銀行の加盟は渡りに船だった。

MEJARは広島銀行の参画で関西以西の地銀を初めて獲得する
MEJARは広島銀行の参画で関西以西の地銀を初めて獲得する
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