地方銀行の勘定系システム共同化で2強の日本IBMとNTTデータは、いずれも「共同化の共同化」という方向性を打ち出している。共同化陣営をまたいでシステム基盤を共同利用する構想だ。既存の共同化ですら参加行の利害がぶつかりかねないなか、実現までには曲折も予想される。
社会インフラであるITシステム安定稼働の実現――。日本IBMがこのほどまとめた「5つの価値共創領域」。山口明夫社長はAI(人工知能)やクラウド、量子コンピューターなどを差し置いて、5項目の筆頭に冒頭の言葉を選んだ。日本IBMとして、ミッションクリティカルシステムの安定稼働を重視していることを内外に示すためだ。山口氏は「データ量がますます増えていくなかで、何よりもシステムの安定稼働の重要性が増してくる」と強調する。
地銀の勘定系システムも山口氏の言うミッションクリティカルシステムの1つだ。日本IBMの中で、地銀の勘定系システムは依然、重要性が高い事業である。
ただ、収益性が高いビジネスとは言いづらいのが実情だ。関係者の話を総合すると、再編に伴うシステム統合を除いて、地銀の勘定系システム事業の利幅は薄いという。
日本IBMにとって地銀勘定系システムの収益性を高めるための事業構造改革は避けて通れない。そこで同社が推進しているのが「共同化の共同化」(村田将輝常務執行役員テクノロジー事業本部長、取材時は常務執行役員経営企画担当兼金融インダストリー担当)という構想だ。
アプリはマルチバンク対応に
共同化の共同化とは、どのようなものなのか。
日本IBMは地銀向けに、千葉銀行が中心の「TSUBASA基幹系システム」やふくおかフィナンシャルグループ(FG)と広島銀行が参画する「Flight21」など4つのシステム共同化を展開している。共同化の共同化では陣営をまたいでシステム基盤を共同利用する仕組みを想定している。
サーバーに関しては「メインフレーム、オープン基盤、クラウドのいいとこ取りをする」(村田氏)。日本IBMによると、IBMメインフレームの1秒当たりの命令実行回数を100万回単位で示す「MIPS(Million Instructions Per Second)」は過去10年間で3.5倍になったという。米IBMは2022年10月、メインフレームなどに今後10年間で200億ドル(約2兆6000億円)を投資する計画も明らかにしている。
業務やアプリケーションについては「共同化陣営ごとにマルチバンク化する」(村田氏)ことを目指す。銀行の勘定系システムに特化したミドルウエアである「SAIL」を改修し、陣営ごとに参加行が同一のアプリケーションを利用できるようにする。銀行コードをキーに、各行の勘定元帳へのアクセスを振り分ける仕組みを想定する。現状は各行が個別に業務アプリケーションを稼働させている。マルチバンク対応を進めることで、システムの運用コストや作業負荷を減らしたり、システム統合時のプロジェクト期間を短縮したりする効果を期待する。