ユーロ7ではタイヤの摩耗粉じんを「マイクロプラスチック」として扱っているが、タイヤ業界では「Tyre and Road Wear Particles(TRWP)」と呼ばれる(図2)。TRWPを構成するのは、タイヤから出るゴム片だけではない。タイヤと路面が摩擦し、双方が削れて生じた物質が結びついてできるものだ。
業界団体やタイヤメーカー各社では、これまでもTRWPやタイヤの摩耗量を減らす取り組みを進めてきた。例えば、フランスMichelin(ミシュラン)は2015年から2020年にかけて、同社全体でタイヤから出る摩耗粉じんを5%減らしたと示している。
摩耗量の低減にかかわる「耐摩耗性」は「グリップ性」「転がり抵抗」と並ぶ、タイヤの3つの基本性能の1つである。タイヤメーカー各社は、トレッドにおける溝や切り込みなどを含む設計や材料技術など、多様なアプローチで耐摩耗性の向上に注力してきた(図3)。
こうした点から、ユーロ7によって各社がタイヤ開発の方針を大きく転換することは考えにくい。ただ、3つの基本性能は互いにトレードオフの関係にあるとされる。規制値を満たすために耐摩耗性だけを高めればよいわけではない。安全に関わるグリップ性や燃費を左右する転がり抵抗も重要な性能で、おろそかにはできない。
タイヤの摩耗量への規制によって、3つの基本性能を高い水準で並立する必要があるため「これまで以上にタイヤメーカーの技術力が問われるのは間違いない」(ある国内タイヤ大手の技術者)。とりわけ、タイヤ摩耗の点で不利なEVに対し、どのような解決策を提案できるのか、タイヤメーカーの手腕が注目される。規制値の設定によっては、技術力で劣るタイヤメーカーが淘汰されることにもなりかねない。