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 欧州の新環境規制「Euro 7(ユーロ7)」が自動車業界を翻弄している。欧州委員会(EC)は2022年11月、何度も延期していた規制案をようやく発表。「規制案が出れば具体的な対策を進められる」(ある部品メーカーの幹部)はずだったが、輪郭がはっきりしたことで新たな不安や悩みが生まれている。

ECがユーロ7の規制案を発表
ECがユーロ7の規制案を発表
当初の予定から約1年遅れで提案された。規制案は今後、欧州理事会と欧州議会で審議される。(写真:日経Automotive)
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 「排ガス規制の枠を超えた、新しいルールが生まれる」。国内自動車メーカーのパワートレーン技術者はユーロ7をこう受け止めた。これまでは内燃機関(ICE)搭載車を対象としてきたが、力業で電気自動車(EV)すら規制対象として飲み込む。

 世界に先駆けて厳しい規制を導入し、競争力を高めていくのが欧州の流儀である。“ルールメーカー”が仕掛けるユーロ7はどのような内容か。「10の疑問」を解いていくと、新規制のポイントや欧州の思惑が見えてきた。

Q1:そもそも欧州の排ガス規制「ユーロX」ってどんなもの?
Q2:ユーロ7の導入時期は?
Q3:ユーロ6からの大きな変更点は?
Q4:排ガス規制なのにEVも対象なの?
Q5:EVに関わるユーロ7の規制値はどのようなもの?
Q6:ユーロ7の排ガス規制値は?
Q7:ユーロ7の導入で車両コストはどれくらい上がる?
Q8:排ガス規制成分に新たに追加されたアンモニアへの対応策は?
Q9:排ガス状態を常時観測するOBMって何?
Q10:「ユーロ8」(仮)はあるのか?

Q1:そもそも欧州の排ガス規制「ユーロX」ってどんなもの?

 自動車の排ガスに含まれる大気汚染物質の上限値を定めたもので、欧州では1992年7月に「Euro 1(ユーロ1)」が導入されたのが歴史の始まり。現行規制は「Euro 6d(ユーロ6d)」。規制値を満たさない車両は販売できない。

 自動車の性能に関する規制としては二酸化炭素(CO2)排出量規制もあるが、こちらは達成できなければ罰金が科せられる。裏を返せば「最悪の場合、罰金の支払いで対応できる」(ある国内自動車メーカーOB)。これに対してユーロXは、規制値を満たさなければ商売ができなくなるので、対応は避けて通れない。

 窒素酸化物(NOx)や炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)などエンジン車の排ガス物質を規制してきたユーロXだが、次期ユーロ7では規制そのものの位置付けが変わる。エンジンを搭載しないEVを含む全てのパワートレーンを対象とする“総合環境規制”として、影響力はいっそう強くなりそうだ。

Q2:ユーロ7の導入時期は?

 乗用車や小型車商用車(バン)は2025年7月から、バスやトラックなど大型商用車は2027年7月から新規制が適用される見通しである。このタイトなスケジュールに対して自動車業界からは不安や不満の声が噴出した。

 米S&P Global Mobility(S&Pグローバル・モビリティ)Japan Automotive Powertrain & Complianceアソシエイトダイレクターの波多野 通氏は、「新型車と継続生産車でユーロ7の適用開始時期を分けていない点が自動車メーカーにとって大きな課題になりそうだ」と指摘する。

 これまでの規制は、まず新型車に導入し、1~2年後に継続生産車に対象範囲を広げていた。公開されたユーロ7案では新型車と継続生産車で時期をずらすとの記載はなく、「全てのモデルで規制を満たせるようにする作業は大変で、パワートレーンのラインアップを絞る自動車メーカーが出てくる可能性がある」(同氏)。

 ドイツSchaeffler(シェフラー)でCTO(最高技術責任者)を務めるUwe Wagner(ウーヴェ・ワグナー)氏は「試験方法が完全に決まっていないものがあり、これがかなりの問題。決まらないことには対策できない」と指摘する。