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 政府は2023年10月に始まる「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」を円滑に導入するため、2023年度の税制改正大綱でいくつかの負担軽減策を打ち出した。最も影響があるとみられているのが、免税事業者が課税事業者へ転換した場合の税負担を時限で軽減する優遇策だ。

 優遇策の期間は2023年10月から3年強である。対象となる課税売上高1000万円以下の個人事業主や中小零細企業にとって、この期間は免税事業者を維持するか課税転換するかの判断だけでなく、価格交渉やIT導入など、課税転換に向けた環境整備にも取り組む期間になりそうだ。

 課税転換するならば現状の取引代金が適正とはいえず値上げが必要だと考える小規模事業者が多いからだ。免税事業者と取引がある企業側も交渉への対応を求められるだろう。また経理のIT化を進めるなど、消費税を納税しやすい事務処理の方法を検討する機会になる。

消費税の納付額は現行の4割に減るケースも

 課税転換した小規模事業者に対する時限の優遇策は「2割特例」と呼ばれる。特例を適用できる課税期間は、個人事業主の場合は2023年10月〜2026年末、法人は2023年10月〜2026年9月末に属している事業年度が対象である。

 本来の消費税額の計算は、売上高に基づく消費税額である「売上税額」から、仕入れ額に含まれる消費税額である「仕入税額」を差し引く控除処理で計算する。これに対して、2割特例は仕入税額の計算を不要にして、納付する消費税を売上税額に2割を掛けた金額とする。

 例えば、売上高が700万円ある免税事業者が2割特例を使って課税転換すれば、納める消費税は売上税額70万円(700万円×消費税率10%の場合)に2割を掛けた14万円になる。

⼩規模事業者に対する負担軽減措置のイメージ
⼩規模事業者に対する負担軽減措置のイメージ
(出所:財務省)
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 こうした計算方法は、課税売上高が5000万円以下の事業者に認められている現行の簡易課税制度とほぼ同じだ。簡易課税も仕入税額を計算する必要がなく、売上高に占める仕入れ金額を業種ごとに決まった仕入れ率とみなしている。例えば、システムエンジニア(SE)やデザイナーなどの知識労働者や運送ドライバーなどの職種は50%のみなし仕入れ率を適用できる。

 つまり2割特例の税額は、簡易課税制度で80%のみなし仕入れ率を適用している状態と同じになる。現行のみなし仕入れ率が50%の業種にとっては、特例を使うことで消費税の納付額を4割に減らせる計算になる。

免税を前提にした価格交渉を見直す

 免税事業者の主要な関係者は今回の優遇策を前向きに捉えている。3年強とはいえ納付額が減ることは、取引先との価格交渉のハードルを下げることになるからだ。

 フリーランスの支援や政策提言などを手掛ける一般社団法人、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の平田麻莉代表理事は「課税転換を考えている個人事業主にとっては、消費税を負担しても事業が継続できるよう、取引先と適正な価格を交渉するための機会になる」と特例期間を捉えている。

 逆の見方をすれば、免税事業者は消費税の負担がないことを前提に元請け企業との価格交渉に対応し、実態として課税転換に耐えられない下請け代金になっている場合が少なからずある。免税であることを背景に発注代金が課税事業者よりも安く抑えられてきたケースもあるようだ。

 IT業界で働くフリーランスも事情は同じだ。ITフリーランス支援機構の高山典久代表理事は個人的な見解とした上で「フリーランスのエンジニアは免税事業者であることを前提に収支を立てている。課税転換はコストアップを意味しており、改めて誰が負担するかを、交渉を交えて決める必要がある」と指摘する。

 高山代表理事は自らもIT人材の仲介事業を手掛けており、「フリーランスエンジニアの単価引き上げにかなう案件を紹介したり、取引先と価格交渉を進めたりしていく。インボイス制度はその1つの契機になる」とする。IT人材の人手不足もあり、フリーランスが課税転換しても税負担の増加分を確実に転嫁できるよう案件の選択や交渉を進める考えだ。

 財務省も2割特例の狙いについて、「政府として免税事業者から課税事業者への転換を促す意図はないが、時限的に負担額が軽減されることで、この期間に免税事業者と取引先の双方が価格交渉を進めやすくなることに配慮した」という趣旨を説明している。