2022年11月10日、欧州委員会(EC)が欧州での次期自動車環境規制「Euro 7(ユーロ7)」をようやく正式に提案した。今後、欧州議会と欧州理事会での審議に移行する。
ユーロ7は乗用車/小型商用車への規制案と、大型商用車のトラックやバスへの規制案をひとくくりにした法案である(規制値は異なる)。前者は2025年7月から、後者は2027年7月から施行すると提案している。本来の提案時期から遅れること1年近い。2021年12月、2022年3月、2022年7月と3回も正式提案を延期している。
その遅れた背景には幾つか理由がある。1つは、ECの下で研究機関などで構成される次期環境規制案に関する諮問機関CLOVE(Commission consortium of consultants tasked to work on Euro7:ユーロ7基準を提案するためのコンソーシアム)の実質エンジン車を排除するような非常に厳しい法案(CLOVE案)が事前に出回り、欧州自動車工業会(ACEA)やドイツ自動車工業会(VDA)、欧州自動車部品工業会(CLEPA)など欧州自動車業界が猛反発したことだ(表)。各団体ともECやCLOVEへのロビー活動が盛んになるも、妥協なしの平行線であった。
もう1つは、ECが「欧州グリーンディール」包括法案として二酸化炭素(CO2)低減策「Fit for 55」を2021年7月に提案し、欧州議会や欧州理事会での審議を急ぐ必要があったこと(図1)。2030年に欧州連合(EU)のCO2排出量を1990年比で55%削減するというものである。
その中に、乗用車や小型商用車に対するCO2排出量低減の改定案として、2035年にはテールパイプで100%削減があった。これにも欧州の自動車団体が猛反発し、2022年6月に前述の両会議体で2026年に見直しをする旨を追記する形で事実上決着した。
さらには、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻である。その約2週間後という早さでECは、欧州でのエネルギー危機対応策として「REPowerEU」というアクションプランを発表した。2030年までに化石燃料のロシア依存から脱却するというもの。その基本方針は、水素を含めた再生可能エネルギーの拡大や天然ガス調達の多様化などだ。それら施策の具現化などを優先したのだろう。
以上、2022年はECにとって大変多忙な時期となり、優先順位的にユーロ7の正式提案が同年11月にずれ込んだのではないか。
CLOVE案から「かなり緩和」
ようやく提案されたユーロ7の中身は、表の通りである。一言で言うと、乗用車および小型商用車に対するエンジンからの排気規制案は、以前のCLOVE案に対して、かなり緩和された規制値となった。
表のようにガソリンエンジン車の場合、現行規制の「ユーロ6d」から炭化水素(THC)、メタン(CH4)を除く炭化水素(NMHC)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)の各規制値は変更なしだ。一酸化炭素(CO)についてはディーゼルエンジン車では変わらず、ガソリンエンジン車で半減の500mg/kmと強化する。PMの個数(PN)の規制値は変わらないが、規制すべき対象微粒子の大きさがユーロ6dの直径23nm以上から直径10nm以上に拡張する。
加えて、乗用車/小型商用車については、ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車ともに共通の規制値となった。また、排ガス成分の監視ロジックOBM(On Board Monitoring)を追加した。以下、乗用車/小型商用車の排ガス規制案を中心に述べる。