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 地方自治体が保有する住民データのほか、医療機関が保有する診療情報といったプライバシー性の高いデータの活用が進んでいる。国や自治体といった公共分野と医療や教育、防災といった準公共分野で注目が集まるが、特に準公共分野では、公共性の高いデータ活用と、営利企業である民間企業の利益を念頭に置いたデータ活用の線引きは難しい。そのガバナンスが重要となる。

 今後、公共・準公共分野でこうしたデータ活用が進むに当たり、留意点はどこにあるのか。

 住民に向けた行政サービスの利便性をデータ活用して向上させる――。そんな目的のため、福島県会津若松市が取り組むのが、市の保有する住民データを住民本人に還元するデータ活用だ。

 会津若松市は2023年3月から、市が保有する住民データを、行政手続きの申請時などに住民本人がインターネット経由で利用できるようにする。具体的には、転出や転居の手続きでこれまで逐次入力していた世帯情報を、市保有データを参照して自動入力できるようになる。

転出・転居時に、オンライン申請で自動入力

 会津若松市が2023年3月から始める新たな施策は、市外への転出や市内の転居の際、窓口に来庁しないでオンラインで完結する手続きサービスである。オンラインから手続きをするための「手続きナビシステム」の専用Webサイトから案内に従って選択や入力をする。マイナンバーカードを使って本人確認や基本4情報(氏名、性別、住所、生年月日)を入力するほか、申請者本人の同意の上で、市が保有している住民データを参照し、申請者の世帯全員の基本4情報を自動入力する。

会津若松市における転出・転居時のオンライン手続きの仕組み。黒の矢印はデータの流れ、緑の矢印は転出・転居手続きで本人が個人情報を活用する際のデータの流れを示す
会津若松市における転出・転居時のオンライン手続きの仕組み。黒の矢印はデータの流れ、緑の矢印は転出・転居手続きで本人が個人情報を活用する際のデータの流れを示す
LGWAN:総合行政ネットワーク、DMZ:DeMilitarized Zone、非武装地帯(出所:会津若松市の資料を基に日経クロステック作成)
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 引っ越しの手続きでは、申請者が世帯全員の情報を入力する必要があり手間になっている。一方で、自治体は世帯情報をもともと保有しているため、自治体保有の住民データを活用することで自動入力できるというわけだ。

 ただし通常、自治体保有の住民データはセキュリティーや個人情報保護のため、インターネットからは切り離された環境に置かれており、庁内の業務担当部署しか扱うことはできない。そこで会津若松市では、行政手続きなどで自身の住民データを活用するかどうかあらかじめ本人に同意(オプトイン)を得た上で、本人から申請があった際に、そのオプトインの情報を参照する。同意が得られていれば、自治体保有データの中から必要な情報のみを専用Webサイトを通じて本人に返す仕組みを構築した。

 具体的には、まず、官民で運営する会津若松市の市民向けポータルサイト「会津若松+(プラス)」から、住民本人があらかじめオプトインする。専用Webサイトから申請する際に、世帯情報など市が保有するデータを利用する要求を出すと、システムがオプトイン情報を参照する。オプトインが得られていれば、住民データのある基幹系業務システムの副本データベースに問い合わせて必要な情報を取得し、セキュアゲートウエイを介して手続きの申請書に自動入力できるようにする。

 市ではセキュリティーを確保するためセキュアゲートウエイを新たに設置したほか、庁内ネットワークと自治体の専用ネットワークである「LGWAN(総合行政ネットワーク)」の中間にDMZ(DeMilitarized Zone)を新設し、ここに住民データのやり取りに必要な連携サーバーを設置した。オプトイン情報は会津若松+のサーバーから取得する。また、申請のID(専用Webサイトから申請する際の本人のID)を基幹系システムの住民データに割り振られている宛名番号に変換し、副本データベースから情報を取得するためのIDひも付けテーブルをセキュアゲートウエイに置いた。

 同様の仕組みを利用して、2023年3月までに、市が提供している母子健康情報サービスアプリから、自動的に予防接種履歴や健診情報を取得できるようにする。

会津若松市の市民向けポータルサイト「会津若松+(プラス)」。母子健康情報サービスの説明を掲載
会津若松市の市民向けポータルサイト「会津若松+(プラス)」。母子健康情報サービスの説明を掲載
(画像:会津若松市)
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