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戸田市と教育・法の有識者でデータ活用の指針策定 

 もう1つの先行自治体は戸田市だ。同市は、児童・生徒の不登校の予兆を早めに捉え、支援につなげることを目的として教育総合データベースを構築する。将来的には、家庭での困難な状況に直面する子どもの支援や、学校全体の学力向上を目指した指導現場の改善も視野に入れている。

 検討しているデータ項目は、氏名や生年月日、性別などの「基礎情報」、長期欠席調査や教育相談の利用有無などの「生徒指導」に関する情報、県で実施する「学力・学習状況」、健康診断結果などの「健康」に関する情報、学校生活アンケートなどだ。

 戸田市の取り組みにおいて特徴的なのが「教育データの利活用に関するガイドライン」を自治体だけでなく、不登校支援の専門家や個人情報保護に詳しい弁護士、教育やデータ分析領域の研究者らをアドバイザーとして協力してもらい策定した点だ。教育政策に関する調査研究を行う機関として2019年度に「戸田市教育政策シンクタンク」を教育委員会内に設置。このシンクタンクにアドバイザリーボードを置き、外部の専門家の声を取り入れる仕組みをつくっている。

 ガイドラインは「教育データ利活用の基本的な方針」と「教育データ利活用に際しての具体的な措置」の2点を軸に詳細を定める。プライバシー性の高いデータを利用する上で、住民に対しデータ連携の目的を丁寧に説明し、理解を得る必要があるという考えのもと、このガイドラインを策定した。

 基本的な方針については、「あくまでも教職員などの気付きや判断をサポートするツールとして位置付ける必要がある」とし、データ利活用という手段が目的化しないよう示している。また、指導の対象者を恣意的に選別したり、いじめっ子を予測するなど児童・生徒のふるい分けをしたりして差別的・不適正な利用につながることがないよう明記している。

 一方、教育データ利活用に際しての具体的な措置では、データの管理・分析・活用に関わる主体に向け「データガバナンス体制の確立」「安全管理措置」「関係者に対する丁寧な説明」「データベースの構築・運用のあり方」などの項目を定めている。ガイドラインに記載する内容と、実際の運用が大きく異なる場合は、シンクタンク所長やアドバイザリーボードに共有し、改善する。

戸田市の教育データ利活用に関するガイドライン「教育データ利活用に際しての具体的措置」の概要
戸田市の教育データ利活用に関するガイドライン「教育データ利活用に際しての具体的措置」の概要
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 戸田市教育委員会事務局次長で教育政策室の横田洋和室長は「自治体ごとに取り組む課題が異なる。自治体ごとの課題や使うデータの性質を踏まえたガイドラインの策定が国としても必要だ」と話す。

4月施行の改正個人情報保護法への対応に懸念

 両自治体は共通して、子どもに関するデータ連携を先立って進めていた自治体ならではの懸念を抱える。2023年4月1日から施行される改正個人情報保護法への対応だ。地方公共団体の個人情報保護制度は個人情報保護法に統合され、個人情報保護に関する全国的な共通ルールが定められる。

 デジタル庁は改正個人情報保護法に対応する個人情報の取り扱いを整理する必要があるとし、その考え方について「こどもに関する各種データの連携に係る留意点(実証事業ガイドライン)」に2022年12月20日付で追記した。

 しかし、改正後の実務を経てからしか分からないこともある。改正後の動きを見た上での議論も必要そうだ。

 尼崎市いくしあ推進課の東課長は、同市の現条例と改正個人情報保護法との間に趣旨・解釈の乖離はなく、条例に基づいた対応をしているので問題はないとした上で「ただ、個人情報を取り扱う上で、各所管の事務処理上の課題が新たに生まれる可能性はある」と話す。

 また、戸田市教育政策室の横田室長は国のガイドラインなどを踏まえた上で「国の大きな方針のもとで、自治体の中での運用を確立する必要があるだろう」との見方を示す。

 子どもを守るためのデータ連携に関する取り組みは、まだ始まったばかりだ。尼崎市、戸田市の担当者ともに「1年で結論を出せるものではなく、長い目で利用方法や効果を見ていくことが大事」だと話す。プライバシー性の高いデータの利活用には、住民への丁寧な説明や目的に準じたデータ項目の設定、データの管理や利用に関するガバナンスを明示しながら進めていく必要がありそうだ。