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 地震などの大規模災害時に1人でも多く人命を救うよう、平時から災害発生前後までの段階に応じた対策に向けて、デジタル庁や地方自治体などでデータを活用する動きが進んでいる。ただ、そのためにはプライバシー性の高い住民データの活用が必要であり、個人情報保護に配慮した上で、データをどう使うかのガバナンス(統治)についての議論が必須だ。

 データ活用にはデータ連携基盤システムが不可欠だ。アプリケーション、サービス開発などで実用化するにはデジタル技術の果たす役割が大きい。防災分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するため、関連省庁や地方自治体、民間事業者らが参加する「防災DX官民共創協議会」 が2022年12月に発足した。デジタル庁が官民へ参加を呼びかけ、2023年2月2日時点で72の地方自治体と、大手ITや情報通信、ユーザー企業などさまざまな分野・業種から209の民間事業者や団体が集まる。事務局は三菱総合研究所が務める。

 同協議会では、防災分野における課題の明確化や課題に応じた施策を検討する。活動内容として、防災分野のデータアーキテクチャーとデータ連携基盤、デジタル化推進に必要と認められる事項や、マイナンバーカードを活用した防災対策などの検討を挙げる。

個人情報などの取り扱いに懸念持つ企業・団体

 デジタル庁は内閣府などと連携し、防災向けのデータ連携基盤の構築を目指す。さらに将来的には、マイナンバーカードを活用することで、住民の個人事情に応じた防災対応につなげるとしている。具体的には、住民データを活用して、住民それぞれの避難タイミングや避難場所への誘導、避難時の物資や医療の提供、復興に必要な支援などを個人事情に合わせて提供するという構想だ。

デジタル庁が示す、防災を目的としたマイナンバー活用構想の例。防災DX官民共創協議会のシンポジウムで示した
デジタル庁が示す、防災を目的としたマイナンバー活用構想の例。防災DX官民共創協議会のシンポジウムで示した
(出所:デジタル庁)
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 2022年12月19日に開かれた防災DX官民共創協議会のキックオフイベントで、河野太郎デジタル大臣は、避難所運営の課題と構想について説明。例えば、アレルギーのある人への食事や赤ちゃんの粉ミルクがどれだけ必要か、高血圧の人へどう薬を提供するかなど考慮しなければならない現場の課題を示した上で、「これまではアナログで対応してきたが、デジタル化すれば効率的になる」と話した。

 一方、防災DX官民共創協議会で併せて開かれたシンポジウムでは、課題も浮かび上がった。同協議会会員に向け実施したアンケートの結果から、個人情報の扱いやデータやシステム間の連携の体制、産業化などについての懸念の声だ。

 まず、データやシステム間の連携、官民や自治体・省庁との連携体制に関わる「連携」を取り巻く課題だ。続けて、個人情報の取り扱い方、本人同意と本人確認、データ連携における法的課題と技術的課題などの「個人情報」に関する課題が挙がった。他にも防災関連ビジネスという産業化の出口への懸念なども示された。

内閣府、改正個人情報保護法に向けた指針を策定へ

 多くの自治体が懸案する事項の1つとして、2023年4月1日から全面施行される改正個人情報保護法への対応がある。現在、各自治体はそれぞれの条例に基づき個人情報を取り扱うが、改正後は個人情報保護法の下で情報を取り扱う必要がある。

 こうした懸念に応じる形で、内閣府は、災害対応業務における個人情報の取り扱いについて指針を示すために2022年3月に検討会を設置し、整理を進める。検討会を経て、内閣府は2023年2月8日に「防災分野における個人情報の取扱いに関する指針(案)」を公表した。指針案では15個の事例を挙げる。例えば「被災した可能性のある人の名簿を救助活動のために、自衛隊や警察、消防機関に提供してよいか」などといった状況を設定し、参照する法律の条項とともに、事務におけるポイントの整理や望ましい対応などを示す。2023年3月1日までパブリックコメントを受け付ける。

 この指針策定の目的について、内閣府は「過去の災害における個人情報を取り扱った事例なども踏まえ、災害対応を行う自治体の判断の一助となること」を示すとする。個人情報の取り扱いについて定める個人情報保護法と、災害対応における個人情報の取り扱いを定める災害対策基本法を順守しつつ、自治体がスムーズに災害対応を進められるようにする。内閣府の防災担当者は「自治体へのアンケートで出てきた、業務の中での疑問に応じた事例を示したものになる」と説明する。