DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトでは、トライアルなどに取り組んだりするが、様々な注意点がある。そこで今回は、DXプロジェクトの仮説検証・トライアルの段階で役立つ11種類の心得を詳細に紹介しよう。
すぐに正解を求めるな
DXプロジェクトの関係者が仮説検証で持つべき心得の1つが「すぐに正解を求めるな」だ。特に「これまでにない新しい価値を提供する」といったテーマを掲げるDXプロジェクトでは、統括する上司や役員といったステークホルダーから、プロジェクトのメンバーが立てた仮説について「それは正解なのか」といった質問が出てくることが少なくない。
正解は誰も持ち合わせていない
背景には、「その仮説が正解ならば、成果がきっと得られる」などと、ステークホルダーが考えがちなことがあるが、こうした質問は的外れと言わざるを得ない。これまでにない新しい価値の提供を目指すDXプロジェクトでは、メンバーを含めて誰も正解を持ち合わせていないからだ。
アフラック生命保険の金井由紀子IT・デジタル業務部IT人財マネジメント課課長は、ステークホルダーを含めて「DXプロジェクトでは、まだ見ぬものを生み出していて、誰も正解は持ち合わせていないことを、ステークホルダーにしっかりと理解してもらうことが大切だ」と指摘する。正解かどうかは誰にも分からない。デジタル技術を実業務などに活用できるのかどうかをみるPoC(概念実証)で確かめよう。
PoCは先を決めてから始めよ
DXプロジェクトでは、PoCでデジタル技術を試したものの「業務で使えない」といった理由でその後の工程に進めない、といったことが起こりやすい。
PoCの後工程につなげて成果を得るために有効な心得が「PoCは先を決めてから始めよ」である。ブリヂストンの花塚泰史デジタルソリューションAI・IoT企画開発部門部門長は「PoC の結果を見てからその先、どうするのかを決めましょう、といったスタンスでは、DXプロジェクトが途中で終わってしまう可能性が高い。そこでPoCを始める段階で、PoCがうまくいったら次にこのステップに行くと、その先を決めておくとよい」とアドバイスする。PoCで達成すべきKPI(重要業績評価指標)も設けて取り組むのもよいという。
トライアルに移れるレベルを見極める
「業務で使えない」という判断でプロジェクトを終わらせない工夫は他にもある。ブリヂストン デジタルソリューションAI・IoT企画開発部門デジタルAI・IoT企画課の花田龍氏は、予測モデルを組み込んだシステムを開発するDXプロジェクトで、業務担当者とともに「AI(人工知能)の予測精度がどれくらいのレベルに達したらトライアルに移れるか」を検討して見極めたという。
こうした見極めをしないまま開発を進めると、エンジニアが良かれと思ったレベルの精度で予測できるシステムを業務担当者に示しても、「そのレベルの精度では、業務の現場で役立つのか分からない、といった議論になりかねない」と花田氏は指摘する。
PoCでは勝ちが見える仮説を交ぜよ
「PoCには、着手したものの成果につながらずトライをずっと続けるPoC疲れという状況に陥る危険が潜んでいる。こうした状況はプロジェクトのメンバーにとって、心理的にとてもつらくなる」。こう指摘するのは、ソニーグループの小山修一コーポレートDX部データテクノロジーグループゼネラルマネジャーだ。
そこで有効な心得が「PoCでは勝ちが見える仮説を交ぜよ」だ。勝ちが見える仮説とは、「この仮説は、PoCで確かめると高い確率で正しいと言える」ものを指す。
勝ちが見える「ゲーマーは音楽好き」を交ぜる
ソニーグループでもグループ内の多様なデータを掛け合わせることで新しい知見を得るDXプロジェクトのPoCで、「ゲーマーは音楽好き」という、メンバーたちにとって勝ちが見える仮説を交ぜて実施。この仮説は正しいと確認でき、プロジェクトを展開できたという。
ソニーグループの平尾成史コーポレートDX部ビジネスイノベーショングループゼネラルマネジャーは「投資のポートフォリオのように、複数ある仮説の中に、こうした勝ちが見える仮説を交ぜたうえで、PoCを進めるほうがよい」と指摘する。
PoCで技術検証に偏るな
損害保険ジャパンの谷岡哲至DX推進部戦略グループ課長代理は、「PoCで技術検証に偏るな」を心得の1つに挙げる。PoCで、技術の検証だけしかせず現場業務に試験適用していなかったり、現場で実施することを想定せずに進めたりすると、「技術は高く評価できるものの、業務現場に適用できないといったことがままある」と指摘する。「技術の検証とともに、業務現場で早めにテストしたり、業務現場の担当者に意見を聞いたりすることは大事だ」と続ける。
特に最先端の技術では慎重に
特に、最先端のデジタル技術を持つスタートアップ企業やベンダーのプレゼンテーションには説得力があるので、「すぐにPoCに取り組もう」となりがちだという。しかし、デジタルサービスの中には、「海外の商習慣を前提に開発されていて、日本の商習慣には合わない」といったことがあるという。PoCに取りかかる前から慎重な検討が必要だ。
関連して、普段から業務現場の担当者とコミュニケーションを取って、業務の流れであるワークフローや、ペインポイント(困りごと)を把握しておこう。損害保険ジャパンの小谷晃央DX推進部戦略グループリーダーは「あくまでも業務やビジネス上の課題を解決するためにデジタル技術を使う、というマインドを持つことが欠かせない」と指摘する。