自社の業務にAI(人工知能)などを適用するDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトでは、失敗・課題・困難に直面することはつきものだ。今回はこうした場面で生きる心得7つを詳しく紹介しよう。
課題はすぐに共有せよ
DXプロジェクトでは様々な課題に直面することが多い。こうしたプロジェクトで、メンバーの心理面をケアするのにも有効な心得の1つが、「課題はすぐに共有せよ」だ。
課題に直面するのは努力不足が原因ではない
この心得を踏まえて、直面した課題をすぐDXプロジェクトの内外で共有して解決する体制をつくっておくことが重要だ。その理由を、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の川名洋平DX推進部部長は「DXプロジェクトで課題に直面するのは、新しいことに取り組んでいるからであって、メンバーの努力不足が原因ではない。他の部署を巻き込んで取り組めば解決しやすい課題もあるので、直面した課題は表に出してもらい、ときには経営判断を仰いで解決して進めていくようにしている」と、話す。
SMFLでは具体的に1カ月に1度、社内で取り組んでいる全てのDXプロジェクトの進行状況を、経営層を含めてレビューを実施している。課題があれば解決に向けた指針を示す。解決に向けた指示は、役員が出している。この他、ユーザーからのフィードバックや開発規模が大きいサービスを手掛けているDXプロジェクトでは、1日や2日といったサイクルで、課題に対する解決方針などの判断を下すようにしているという。
失敗を恐れるな
ITシステムの開発プロジェクトは要件定義・設計・開発・テストといった工程からなるウオーターフォール型で進めることが主流だった。この流れに慣れたITエンジニアは多い。自身もシステム開発で長い経験を持つアフラック生命保険の橋口健一DX推進部DX企画課Principal Business Analystは、「本番稼働前、単体・結合とプロセスを踏んでテストを実施していくことは当然で、本番システムで障害発生はあり得ないといった考えを、ITエンジニアは特に持ちがちだ」という。
言い換えると、ウオーターフォール型の開発では「失敗は許されない」といったスタンスが求められるわけだ。しかし、アジャイル型の開発スタイルを採用しているDXプロジェクトに参画するに当たっては、ITエンジニアは、そうした考えやスタンスを切り替える必要がある。つまり、「失敗を恐れるな」という心得が大切だと言える。
「アジャイル型の開発では失敗は許されるものだ。実証的なアプローチを取るので、一度開発してみて、うまくいかなければ軌道修正して違うものを出していけばよい、というマインドで進めていけばよい。心理的安全性も担保できる」と、橋口Principal Business Analystは話す。
トップダウンで失敗を恐れるなと発信する
ITエンジニアを含めてプロジェクトのメンバーが「失敗を恐れない」というスタンスで取り組めるようにするにはどうしたらよいか。橋口Principal Business Analystは「プロジェクトリーダーがメンバーにそう呼びかけても効果はとどまる。プロジェクトに責任を持つ部長や役員・社長がトップダウンで、失敗を恐れるなといったメッセージを発信することが大事だ」とみる。
DXプロジェクトに責任を持つ上司や経営層が「失敗を恐れるな」というメッセージを発信することで「リスクを取ってでもDXに挑む」という会社としてのスタンスがプロジェクトのメンバーにも伝わる。メンバーはリスクを取ってチャレンジする意欲が湧く効果が見込めるわけだ。
こうした上司や役員からのメッセージがあれば、仮にメンバーが失敗に直面しても、前向きに対処できる。「失敗についての報告だけにとどまらず、失敗を踏まえてこう対処します、といった対応策の検討にもつながりやすくなる」と橋口Principal Business Analystはメリットを語る。