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DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトのミッションにはシステムやサービスの稼働に加えて、運用・普及も含まれる。そこで今回は運用や普及の段階で役立つ9つの心得を詳細に紹介しよう。

最終回は赤枠内の9つの心得を紹介する
最終回は赤枠内の9つの心得を紹介する
(巻物:Getty Images)
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表 DXプロジェクトで開発・導入したDXのシステムやサービスの普及段階で役立つ心得の例
つくったDXシステムの活用度を高めよ
表 DXプロジェクトで開発・導入したDXのシステムやサービスの普及段階で役立つ心得の例
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運用を自動化せよ

 DXプロジェクトのPoC(概念実証)で成果獲得の見通しが立つと、システム開発が本格化する。この場面以降で役立つ心得が「運用を自動化せよ」だ。

メンバーの手間を省くためにも必要

 ソニーグループの小山修一コーポレートDX部データテクノロジーグループゼネラルマネジャーはこうした場面について、「デジタル技術をビジネスに適用し続ける際、維持コストの抑制が求められてくる。プロジェクトのメンバーの手間をできるだけ省くためにも(運用の)自動化が必要だ」と小山ゼネラルマネジャーは説明する。

 手離れを良くする理由は他にもある。DXプロジェクトを進めていくと、新しいテーマが出ることがある。新しいテーマにプロジェクトのメンバーが携われるようにするには、「それまでに得られた成果をしっかり維持できるシステム化が欠かせない」と、小山ゼネラルマネジャーは指摘する。関連して、システムを利用するユーザーからの問い合わせ応対を効率化するため、分かりやすいシステムマニュアルや、FAQ(よくある質問とその回答)を用意しておくとよいだろう。

つくって終わりだと思うな

 DXプロジェクトは、開発したシステムの稼働で一区切りがつく。こうしたシーンで押さえておきたいのが、「つくって終わりだと思うな」という心得だ。この心得の重要性を損害保険ジャパンの小谷晃央DX推進部戦略グループリーダーは「開発したDXシステムは、活用してもらわなければ意味がない。きちんと活用状況をモニタリングしたり、定期的に業務現場へヒアリングをしたりして、必要な修正をしていくことが大切だ」と説明する。

本稼働後、使いにくいところをこまめに修正

 プロジェクト期間中、業務担当者にプロトタイプシステムを見せてはいても「システムの本稼働後、業務で使ってみると、使いにくいところが見つかる」といったことが起こり得る。そこで「業務担当者にシステムを使ってもらいながら、かゆいところに手が届くといった感じで、こまめに修正していく必要がある」(小谷リーダー)という。

 こうした「使いにくい」といった課題を見つけるきっかけとして、損害保険ジャパンではDXシステムの利用率やログイン数、社内SNS(交流サイト)の投稿などをモニタリングしているという。損害保険ジャパンの谷岡哲至DX推進部戦略グループ課長代理は「特にDXシステムの使い始めの段階が、業務部門の担当者にとってハードルが高い」と指摘する。利用率が低い拠点や地域が見つかれば、利用を促したり、使ってもらえない理由を確かめて改善したりしているという。

現場でDXを自分事化せよ

 製造業の現場には、現場業務の課題を見つけて解決を図る改善のカルチャーがある。三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の藤原雄デジタルラボ所長は、DXシステムを稼働させた後について、「製造業の現場に根付く改善のカルチャーを参考にして、課題と向き合って粘り強く解決し、乗り越えていくことが大切だ」と指摘する。

 直面した課題を現場で解決していくのに有効な心得が、「現場でDXを自分事化せよ」だ。DX関連システムやサービスを使うユーザーが、システムやサービスの課題を自分事として捉えて、自ら解決できるようにしていくことを意味する。

背景に「システムは1回入れたら終わり」のマインド

 この心得が必要な背景として、藤原所長は「ITプロジェクトで開発したシステムは1回入れたら終わり。機能の改善や拡張などはせずに使い続けるものだ」といったマインドを持つビジネスパーソンが多いことを挙げる。開発作業をITベンダーに任せており、機能を改善したくなっても多額の費用がかかり実現が難しいからだ。

 しかし、藤原所長によると、このマインドはDXにとって大きなリスクだという。「DXシステムも、1回入れれば業務上の課題を全て解決してくれると思われがち。しかも、ちょっとでもイレギュラーなイベントが起きてシステムをうまく使えなくなったら、それ以後、使われなくなる。DXではこれが一番怖い。DXに関するそれまでの努力と投資が全部無駄になりかねないからだ」と藤原所長は指摘する。

 現場でDXを自分事化するための施策は具体的に2つある。まず、ユーザーが自身で修正できるように、ローコードでの開発や、柔軟な設定変更ができるような機能を、DXシステムに組み込んでおくこと。もう1つが、ユーザーがそうしたシステムを自ら修正できるように、開発や設定変更の仕方を教育したり、分かりやすいマニュアルを提供したりすることだ。

 この2つの施策を講じれば、「イレギュラーなイベントが起きてシステムをうまく使えない」という課題に直面しても、現場担当者が自分事として自律的に修正して、課題を解決できるようになる。