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 金属材料の販売や金属部品の設計協力・加工を手掛ける技術商社の花岡金属(東京・千代田)は、樹脂系3Dプリンターで鋳造法の一種である「ロストワックス」の原型を造る提案を始めた。手のひらサイズの原型なら製作にかかる時間はたったの約1時間。さまざまな形状の鋳造品を手軽に試作できるため、開発期間を従来の半分程度に短縮することも可能だ。複雑形状の原型を造れる点も強み。例えば複数のパーツを一体化した原型から鋳造品を造れば、溶接や組み付けなどの工程を省ける。

3Dプリンターで造った原型(左)とそれを基に造った鋳造品(右)
3Dプリンターで造った原型(左)とそれを基に造った鋳造品(右)
ヒートシンクをイメージしたサンプル品。(写真:日経クロステック)
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 ロストワックスでは製品と同じ形をした原型をワックス(ろう)など熱で溶ける素材で製作する。原型を石こうなどのセラミック材料や砂でコーティングして加熱処理をすると、ワックスが溶け出て鋳型ができる。その鋳型に金属を流し込んで鋳物を造る。

ロストワックスの工程の概要
ロストワックスの工程の概要
(出所:日経クロステック)
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 一般的にロストワックス製法の原型は、金型にワックスを注入して造る。金型は切削加工で造るため、製作に時間がかかる上に、費用も数十万円から百万円台と高い。しかも、原型用の金型を一度造ってしまうと、製品の設計を変更したい場合には金型を造り直さなければならず、開発・設計期間が延びてしまう。そのため設計変更のハードルが高かった。

 3Dプリンターで原型を製作すれば、金型製作にかかる時間とコストを削減できる上、設計変更にもすぐに対応できる。その利点に目を付けた花岡金属は、2022年10月から3Dプリンターを活用したロストワックスの提案を始めた。原型の造形は、3Dプリンターの開発を手掛けるスタートアップであるグーテンベルク(東京・大田)に委託。造形には、同社が開発した材料押出(MEX:Material EXtrusion)方式の3Dプリンター「G-ZERO」を使う。

 材料押出方式 ノズルから材料を吐出し、積層して立体モデルを完成させる3Dプリンターの造形方式。FFF(Fused Filament Fabrication)方式 、FDM(Fused Deposition Modeling)方式ともいう。

 G-ZEROはプリントヘッドの駆動速度が速く、加速度も大きい。加えて制御ソフトによる振動抑制の工夫などから造形エリアと価格帯が同等の他社製品に比べて3~4倍の速さで造形が可能。手に載るサイズの造形物であれば、「昼休みの初めに造形を開始すれば、昼休みが終わるころには原型が完成している」(花岡金属取締役の花岡宏一氏)というスピード感で造形が終わる。材料は市販のロストワックス製法用のフィラメントを使っている。造形コストは手のひらサイズで数百円程度だ。

ミスがあってもすぐに修正

 例えばあるポンプメーカーとは、ポンプのフランジ部品の試作品をロストワックスで造るに当たって、原型製作に3Dプリンターを使った。量産品と同様に鋳造した試作品で品質を確認したかったからだ。ところが、試作品を造る過程で原型の形を間違えて造ってしまったという。同フランジには穴が合計6つ空いているが、その穴の配置が図面と少し違っていた。通常のロストワックスであれば、原型を造る金型から造り直す必要があり、軌道修正に1~2カ月かかる。対して、3Dプリンターの場合は3Dデータを修正して、すぐに原型を造り直せる。ミスの修正にかかった時間は1~2日程度だった。

ポンプメーカーと開発したフランジの原型
ポンプメーカーと開発したフランジの原型
3Dプリンターで造形している。(写真:日経クロステック)
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 失敗を短時間でリカバリーできるだけでなく、複数種類の鋳物を比較的簡単に試作できる点も開発の効率向上に寄与した。原型を3Dプリンターで造形することで、例えば異なるサイズのフランジや、突起物の角度を変えたフランジを幾つも造って比較検討でき、開発をスピーディーに進められた。グーテンベルク取締役の鈴木亮介氏は「3Dプリンターを使ったトライ&エラーを通じて、破壊的なイノベーションを起こせると考えている」と語る。

 開発期間を抑えられるというメリットもある。サイズや形状などによっても異なるが、花岡金属で扱う部品の場合、通常は金型製作と鋳造にそれぞれ1カ月、合計で2カ月程度かかるという。3Dプリンターで原型を造れば、金型製作を省けるため従来比半分の1カ月程度に短縮できる。