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 金型メーカーのフジ(埼玉県川口市)が金属3Dプリンターで金型を補修する提案を始めた。損傷した部分に金属を積層造形し、切削加工で仕上げる。従来のTIG溶接による補修と比べると熱疲労を抑えられるため、金型寿命を3倍に延ばせるという。さらに手作業が減り、修理完了までのリードタイムも従来の約1割で済む。実際に自動車関連メーカーの鋳造用金型を3Dプリンターで補修し、実生産で問題なく使えると確認した。

金型の修理を想定したサンプル
金型の修理を想定したサンプル
図の青い丸の箇所ようなへこみの上に金属3Dプリンターで積層造形した。赤丸の箇所は積層後の状態。黄色い丸の箇所が、積層後に切削加工で仕上げた状態。「TCT Japan 2023」(2023年2月1~3日、東京ビッグサイト)で展示した。(写真:日経クロステック)
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 フジは2022年6月ごろにDMG森精機の「LASERTEC 65 DED hybrid」を導入した。同装置は、粉末材料を吹き付けた位置にレーザーを照射して肉盛り溶接のように材料を積層させる「指向性エネルギー堆積(DED)」方式の金属3Dプリンターに5軸加工機を融合させた、いわゆる「ハイブリッド金属3Dプリンター」だ。ワンチャックで積層造形と金属加工ができる。導入の背景にはそうしたメリットに加え、「万が一3Dプリンターとしての利用機会が少なくても、5軸加工機として使って高稼働を維持できる」(同社担当者)という思惑もあった。

 金属3Dプリンターの造形におけるレーザーのビーム径は非常に小さく、溶融した積層材料は瞬時に固まる。そのため、従来のTIG溶接に比べると修理時の熱による金型へのダメージを大幅に抑えられ、金型の寿命を3倍程度に延ばせるという。

 修理にかかる期間の短縮も大きなメリットだ。通常、金型の修理は職人が損傷した部分を溶接で埋めた後、別途機械加工で表面を仕上げる。修理期間は1~3日程度だった。対して、ハイブリッド金属3Dプリンターを使うと、金属の積層から仕上げ加工までを段取り替えなしで1台の機械で済ませられる。修理に要するリードタイムは「8分の1から10分の1程度」(同社担当者)。補修にかかる費用は製品により異なるが「従来と同等か少し高いくらい」(同)だ。

 材料開発では大同特殊鋼と連携した。金型の修理では同社が開発した3Dプリンター用新材料「HTC45」を使う。同材料は金型に広く用いられている合金鋼「SKD61」系の金属粉末。熱伝導率はSKD61の1.5倍、3Dプリンターによる金型造形で用いられることがあるマルエージング鋼の2倍と高い。熱の拡散が速く熱応力を抑えられるため、使用時の亀裂を抑制できる。土台(ベース)の上に金属を積層(肉盛り)した試験片を580℃に加熱後、3秒水冷するというサイクルを繰り返す耐久試験では、マルエージング鋼の肉盛り部分には2000サイクルで亀裂が入ったのに対し、HTC45の肉盛り部分には6000サイクルまで亀裂が入らなかった。