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 金属加工メーカーの東金属産業(静岡県沼津市)が金属3Dプリンターを活用し、ものづくりの付加価値を高めようとしている。同社は2014年に初めて3Dプリンターを導入し、2023年時点で5台が稼働している。3Dプリンターでしか造れない形状がもたらす機能などが評価され、造形品は既に航空や産業機械分野の実製品に採用されている。

東金属産業にある金属3Dプリンターの一部
東金属産業にある金属3Dプリンターの一部
(写真:日経クロステック)
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 同社が使う金属3Dプリンターは全て、薄く敷き詰めた金属粉をレーザーで溶融し、積層させていく「粉末床溶融結合(PBF)方式」。現在は松浦機械製作所(福井市)製の装置を2台、DMG森精機製の装置を2台、ドイツEOS製の装置1台を保有する。装置を複数台持つのは、基本的に1台の装置で1種類の材料のみを扱う体制にし、異なる金属が混入するのを防ぐためだ*1。同社が使う金属粉末の粒径は数十μm*2。「掃除しても取り切れないほど小さいので、高い水準で品質を保証するには材料ごとに装置を分ける必要があった」(同社代表取締役社長の田中健太郎氏)。

*1 1台(EOS製の装置)はさまざまな材料を試す装置として使っている。
*2 現在は基本的にアルミニウム合金(AlSi10Mg)、マルエージング鋼、ステンレス(SUS316L)の3種類の材料に対応している。他の材料を使った開発も行っている。

航空機やヘリの部品として採用

 徹底した品質保証体制の効果もあり、造形品は最終製品に採用されている。2017年ごろには特殊な航空機のドアノブ向け部品を受注した。発注した航空部品メーカーは、将来、航空機で積層造形(AM)部品が増えることを見越して、AM部品を航空機に搭載した実績をつくりたいという狙いがあった。ドアノブのようなAMで造る意義がさほどない部品でも、安全性を評価したうえで航空機に搭載することに意味があったという。

 空撮用ヘリコプターでも同社の部品が採用された。田中社長によるとヘリコプターは基本的な機能を備えた機体を用途に合わせて改造する場合があり、特殊な一品物の部品が多い。そのため、他の工法と比べた際に価格面で3Dプリンターに軍配が上がりやすい。同社はカメラを支えるブラケットやコネクター周りの部品をAMで造って納めた。「切削で造るより安かった」(田中社長)。同社はヘリコプターを3Dスキャナーでスキャンしたデータを基に部品を造っており、機体にぴったり合う形状の部品を造れる点もAMの強みだという。

 近年は産業用機械に組み込む部品での採用例が多い。例えば、AMを使うと1つのノズルの中に細い管を何本も造れる。ガス用、冷媒用など複数のチャンネルを持つ高機能なノズルは需要があり、金属積層造形事業の売上高の1割弱を占める。

ノズルをイメージしたサンプル品
ノズルをイメージしたサンプル品
ノズルの中を細い管が複数通る、複雑な形状をしている。(写真:日経クロステック)
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 東金属産業の祖業は鋳造。現在は溶接、機械加工、機器の組み立ても手掛ける。自社製品はなく、OEM(相手先ブランドによる生産)が基本だ。顧客の扱う製品は、液晶パネル用装置、半導体製造装置、工作機械、建設機械、一般産業機械、エネルギープラントなどと幅広い。

 同社の悩みはOEMが主体であるが故に、価格競争にさらされることだった。OEMを手掛ける企業は当然顧客の図面通りに製品を造るので、どうしても価格が差異化要素になりやすい。田中社長には「新しい分野に進出しないとジリ貧になる」という危機感があった。材料費や人件費から工賃をはじき出す「原価主義」の仕事ではなく、付加価値の高い仕事が必要だと考え、金属3Dプリンターの導入に至った。