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 ExtraBold(エクストラボールド、東京・豊島)は、「製造業に入り込める」ことにこだわった3Dプリンター(付加製造装置)開発をしている。「製造業に入り込める」とは、日本企業が求める工業製品を造れる性能と品質、安定性を備えていることを意味する。2021年9月には「工業用グレード」(同社)の3Dプリンターの「EXF-12」を発売。大型部品の高速造形が可能な装置として、自動車やインテリア分野で活用が始まっている。さらに将来は装置とは別に、既存の工作機械や産業用ロボットに後付けして使える3Dプリンティングのプリントヘッドなども提供する方針だ。

「工業用グレード」をうたう3Dプリンター「EXF-12」
「工業用グレード」をうたう3Dプリンター「EXF-12」
製品名の最後に付いた「12」は装置の外形寸法が鉄道コンテナの代表的なサイズである12フィートコンテナにちょうど収まるサイズであることを示す。(写真:日経クロステック)
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 EXF-12は熱可塑性樹脂でできたペレット材を熱で溶かして押し出して造形する「熱溶融顆粒(かりゅう)製造(FGF:Fused Granular Fabrication)方式」の3Dプリンター。同じような造形方式の3Dプリンターは存在するものの、従来品とは一線を画す「工業用グレード」をうたっている。

 熱溶融顆粒方式 材料を溶融してノズルから吐出するという点では、材料押し出し(MEX:Material EXtrusion)方式やFDM(Fused Deposition Modeling)方式の一種といえる。
EXF-12で造形する様子
EXF-12で造形する様子
(写真:日経クロステック)
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 「工業用グレード」が意味するところの1つはハードウエアの仕様だ。樹脂を吐出する3Dプリントヘッドは、国内の射出成形機関連メーカーの協力の下、射出成形スクリューを応用して独自開発した。代表取締役の原雄司氏は「日本はスクリューの加工技術が優れている。最後は手磨きで職人が仕上げており、樹脂が詰まりにくい」と話す。1時間当たり最大15kgの樹脂を吐出でき、高速造形が可能だ。単純比較は難しいが、海外の大手メーカーの類似製品と比較すると造形速度は「吐出量の多さと熱のコントロールにより、5倍程度速い」(原氏)。

 造形材料としては、ガスが出る塩化ビニル樹脂や、スーパーエンプラを除き、ほとんどの熱可塑性樹脂を使える。工場で発生する廃プラスチックをペレットにリサイクルして造形材料として使うことも可能だ。

 1.7×1.3×1mという大きな造形サイズも特徴。ビルドプレートの温度を80℃まで設定可能にするなど、大型造形で課題となる造形中の反りを抑える工夫を施している。プリントヘッドの駆動には国産のボールねじを用いる。通常の3Dプリンターにはない自動消火装置も「大手研究所などに導入する際、安全のために求められる場合がある」(原氏)として搭載した。工作機械並みに頑丈な仕様で「故障率は他社製品より圧倒的に低く、スクリューやフィルターなどの消耗品さえ取り換えれば10年は使える」(原氏)と胸を張る。

EXF-12の上部
EXF-12の上部
ボールねじを使ってプリントヘッドを駆動する。(写真:日経クロステック)
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 制御装置(NC)にはファナックの製品を採用した。ファナックのNCは工作機械で広く使われており、多くの製造業従事者が慣れ親しんでいる。その他、EXF-12を活用しやすいように3Dデータからスライスデータを作成するツールや簡易造形シミュレーターなどを独自開発した。

EXF-12に搭載しているFANUCの制御装置
EXF-12に搭載しているFANUCの制御装置
(写真:日経クロステック)
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 原氏は、かつて海外製3Dプリンターの国内販売業務に従事していた。そのときに海外製のプリンターでは、日本の製造業の深いところにまで入り込んでいけないと感じたという。例えば、日本では化学メーカーが用途ごと、顧客ごとに多種多様な樹脂を開発している。ところが、海外の3Dプリンターは基本的に決まった材料にしか対応しておらず、日本のユーザーが使いたい材料が使えない。故障もしばしばあったが、製造元のメーカーがすぐに修理に駆けつけることもできない。造形のサイズや速度も産業用途としては不十分だった。EXF-12開発の根底にはそうした問題意識があった。

 量産機の生産体制も工業用途を意識した。現在は3カ所の生産委託先で装置を組み立てられる。原氏は「生産委託先は業界大手なので、部品が不足した場合でも複数の調達ルートを確保している。自社で生産するよりも安定的な生産が可能」と語る。ユーザーが装置を導入した後の支援体制も「整っている」(原氏)といい、今後さらなる支援充実のために技術者を増やす計画だ。