大型の金属加工を手掛ける大丸鐵興(茨城県境町)は主力製品の売り上げ減少が見込まれる中、新たな事業を育てるべく2022年に金属3Dプリンターを導入した。まずは既存顧客に、各社の事業との関連性が高い造形サンプルを見せて、金属3Dプリンターを使う利点をアピールする。平行して電気自動車(EV)など成長が見込める新市場を開拓。2027年をめどに金属3Dプリンター関連事業を売上高の約1割に当たる1億円規模に伸ばす考えだ。
大丸鐵興は建機、橋梁といった大型金属部品向けのプレス、溶接、機械加工などを手掛ける。利益の3~4割を占めるのはトラック向けのステンレス製燃料タンク。EV化が進めば燃料タンクの需要は減るため、いずれ主力製品ではなくなる運命だ。同社代表取締役社長の太田慶樹氏は「4番バッターを変えていかないといけない」と危機感をにじませる。
そこで白羽の矢を立てたのが金属3Dプリンターだ。プレスのような従来工法より伸びしろがあり、付加価値の高い仕事につなげられる可能性が高いと太田氏はみる。門型五面加工機の導入で付き合いのあった日本電産マシンツール(旧三菱重工工作機械)から、同社の指向性エネルギー堆積(DED)方式*1の金属3Dプリンター「LAMDA200」を購入した。投資額は装置の周辺設備やCAMなども含めて約1.4億円*2。小さくない投資だが、「種まきをしないと芽は出ない」と太田社長は先を見据える。
2023年は事業化に向けて、用途や技術の理解に役立つ造形品である「コンセプトサンプル」を使った営業活動に力を入れる。例えば、従来事業の顧客である油圧ショベルを手掛ける建設機械メーカー向けには、土砂の掘削などで消耗するバケットの爪を補修したサンプルを造形した。サンプルは、鋳鉄製の爪の表面に強度に優れるマルエージング鋼を積層させ、摩耗に強い爪にした。そうした従来工法では実現が難しい機能性の高さを売り込み、受注につなげたい考えだ。
放熱性を高められる材料としてEV関連需要が見込まれる銅合金を使ったコンセプトサンプルも用意した。DED方式の金属3Dプリンターは異なる種類の金属の比率を徐々に変えながら積層させることが可能だ*3。同社はニッケルと銅合金の比率を変化させながら積層したサンプル品を造形した。
EVなどに組み込む場合、放熱性が求められる部分には熱伝導率の高い銅合金を使い、逆に冷却が必要ない部分や強度が求められる部分にはニッケルや鋼を使うといった使い方ができると見込む。「『新しい合金』を造れる技術で、自動車関連メーカーも興味を示してくれている」(同社製造部加工課課長の酒井良樹氏)と好感触だ。