「10年前と異なり、近年はユーザーの用途が明確化している」─。3Dプリンター〔付加製造(AM)装置〕の業界関係者は異口同音にこう語る。3Dプリンターが世の中に広く知れ渡ったのは約10年前。当時は個人のホビー用途や試作向けが主な用途だった。しかし、近年、産業向けの装置として利用する企業が増えている。その用途も、試作にとどまらず、最終製品の中小量生産や金型の補修といった具合に広がりをみせる。新たな3Dプリンター活用の波がきているのだ。
オバマ大統領も革命的と評した10年前
検索キーワードの人気度が分かる「Googleトレンド」で2004年以降の動向を調べると、世界全体で2013年5月頃に「3D printer」の検索数がぐっと伸びている。一部の3Dプリンターの基本特許が切れて安価な3Dプリンターが次々と登場したこと、米テクノロジー誌『WIRED』元編集長のクリス・アンダーソン氏の著書『メイカーズ』や米オバマ大統領の一般教書演説の中で、3Dプリンターが革命的なツールだと紹介されたことなどがブームに火を付けた*1。
当時、「誰でもメーカーになれる」として特に注目を集めたのは、主に熱溶解積層方式(FDM方式)の個人向け3Dプリンターだった。ただし、個人向けプリンターの造形物は積層のしま模様が目立つものが多く、寸法精度もあまり高くない。試作や個人の趣味の範囲内ならよかったが、産業用途や最終製品の製造にはまだ使いにくいというイメージが広がり、結局数年で熱狂的なブームは去ってしまった。
展示はスカスカでも盛況
ただ、一時の熱狂が終息した後も3Dプリンター業界は着実に成熟してきた。前述のように企業ユーザーの用途が明確になり、関心や興味も装置そのものから、産業向けとしての具体的な活用方法へと移ってきている。それは世界最大級の3Dプリンティングの展示会「Formnext 2022」(2022年11月15~18日、ドイツ・フランクフルト)にも表れていた。
同展示会に出展したドイツEOSは、利用目的に合った装置を見定めたいというユーザーの要望に合わせて、来場者と議論する場所を広く設けた(図1)。3Dプリンター本体の展示は最低限の2台。3Dプリンターという目新しいツールを学ぶ目的で展示会を訪れる人が多かった約10年前には考えられないブースの造り方だ。
米GE Additive(GE アディティブ)も装置を置かず、ディスプレーでの投映資料や造形品を使った来場者とのコミュニケーションに重きを置いていた。ブースを訪れた人は「展示はスカスカなのに混んでいた」とその盛況ぶりを語った。
3Dプリンターに過去10年で特筆すべき技術的なブレークスルーがあったわけではない。3Dプリンターを手掛けるある企業の担当者は「ユーザーの要望を受けた開発を地道に続けてきた」と語る。開発されたツールに対して、ユーザーはさらなる改善点を見つけて新たな要望を出す。そうした「ユーザーの要望」と「メーカーの開発」の循環をひたすら繰り返し、装置、材料、ソフトウエアの進化によって、3Dプリンターが産業用途としても実用的なツールになってきたのだ(図2)。