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 新型コロナウイルス禍で多くの航空機を飛ばせなくなるという苦境からようやく抜け出し、3期ぶりの黒字化に向けて滑走路を走り始めた全日本空輸(ANA)。そんな同社で2022年12月から、これまでとは次元の異なる新たな燃油節減プロジェクトが本格始動した。航空便の操縦を担う運航乗務員たちとともに、プロジェクトの成功に向けて重責を担うのが、同年7月に本格稼働したばかりの「青いデータレイク」だ。

 「空港や滑走路によって燃油節減策の実施率がどう異なるのか。ボーイング737、767、777などの機種別では、燃油節減策の効果はどう変わるのか。これまで時間をかけて分析してきたが、より迅速かつ細かいメッシュで可能になる」――。ANAの運航部門で2022年12月に本格始動した燃油節減プロジェクトの意義について、ボーイング777型機の機長を務める西川宗夫オペレーションサポートセンターOSCフライトオペレーション推進部担当部長はこう声を弾ませる。

 言うまでもなく燃油費は航空会社の業績に大きく影響する主要な運航経費であり、ANAはこれまでも燃油の消費量を減らす努力を続けてきた。それでも西川担当部長が今回の燃油節減プロジェクトに大きな期待を寄せている理由は、燃油節減の取り組み状況をいつでも自由に確認できる新たなダッシュボードを手にしたからだ。

燃油消費量を分析するためのダッシュボードのサンプル。運航乗務員が使用し、機種別・飛行時のフェーズ別に燃油消費量を把握できる
燃油消費量を分析するためのダッシュボードのサンプル。運航乗務員が使用し、機種別・飛行時のフェーズ別に燃油消費量を把握できる
(出所:全日本空輸)
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フラップ上昇と旋回、どちらが先か

 新たなダッシュボードの存在が燃油節減の取り組み深化にどうつながるのか。分かりやすい例が、航空機の離陸後の「フラップ」操作と旋回操作だ。

 フラップとは航空機の主翼の左右後部にある可動板である。これを操作することで主翼後方の気流を上下方向に変える。一般に、離陸の際は機体を浮上させやすいようにフラップを下向きにして揚力を増やす。浮上後はフラップを元に戻す。下向きのままだと空気抵抗が増し、燃油の消費量が増えて速度も上がらないためだ。

 離陸後は機体の旋回操作も必要だ。離陸後は目的地に向けて早めに旋回しなければ、飛行距離が増えて燃油を余分に消費してしまう。

 ただ、離陸直後はフラップ操作を含めて短時間に複数の操作をこなす必要があり、どの操作をどの順番で実施すれば燃油を最も節約できるかは分かりづらい。さらに離陸時に使う滑走路は風向きなどによりその都度変わるうえ、燃油の消費量は乗客数や貨物の量、風の向きや強さなどにも左右されるため分析が難しい。

 こうした要素が複雑に絡むデータ分析を手間なくできるよう、新たなダッシュボードでは航空機の機種別、空港・滑走路別、時期別のほか、航空便の出発から到着までの各フェーズでも燃油節減の実績値を細かく集計・表示できる。「例えば那覇空港を南向きに離陸して東京方面へ向かう際は、フラップを上げて加速してから旋回するほうが燃油の消費量を少なくできると判明した」(西川担当部長)。