クラウドサービスを使い、サーバーレスでプログラムコードを実行する「FaaS(ファンクション・アズ・ア・サービス)」を構築する企業が相次いでいる。AWS Lambda(ラムダ)に代表されるFaaS基盤のクラウドサービスを利用すれば、開発者は仮想マシンやコンテナなどの実行環境を構築・管理する必要がなくなり、開発のスピードアップに寄与する。コードの実行が終わると必要に応じてITリソースを解放する仕組みなので料金が比較的安く、コスト削減にもつながる。
FaaSの構築はDX(デジタル変革)に向けたシステム開発・改善のスピード向上や、クラウドコスト削減などに欠かせない。横浜ゴムもコスト削減などを目的としてFaaS導入に踏み切った1社だ。横浜ゴムのプロジェクトの軌跡を見ていこう。
自社にとって多機能な分割高なSaaSをFaaSに置き換える
横浜ゴムはSCP(Supply Chain Planning)システムを刷新した際にFaaSとして実装した。同システムは世界中にある拠点のPSI(Production=生産、Sales=販売計画、Inventory=在庫)を基に、それぞれの拠点の出荷必要量や出荷計画を算出する。
刷新前のSCPシステムは海外製SCM(サプライチェーンマネジメント)ソフトのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を活用したものだった。このSaaSはSCM全般をカバーしており多機能だが、横浜ゴムが使っているのはSCPの機能のみだった。そのこともあり、同社にとってはコスト負担が重かったという。そこで新たにSCPシステムを開発し、コスト削減を図ることにした。
新システムではクラウド上にFaaSとして実装するという方式設計の方針を決めた。クラウドはAmazon Web Services(AWS)を採用した。クラウド上のFaaSにする理由は大きく(1)コストメリットが得られること、(2)スケールメリットがあること、(3)BCP(事業継続計画)を考慮できること、の3つである。
オンプレミス環境やIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の仮想マシンを使う従来型の方式、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を使う方式などのケースについてもコストを試算したが、「クラウド上のFaaSが最もコストメリットが大きいと分かった」(横浜ゴムの福井仁システム開発部システム開発3グループグループリーダー)。
横浜ゴムは新SCPシステムで内製化にも力を入れた。外部に開発を依頼すると、機能の改修・追加が発生した際に時間がかかることを懸念した。ビジネス環境が急激に変化する今、スピードに追従するには「内製化が必要だった」(福井グループリーダー)。こうした背景から、実装にパッケージソフトやSaaSは使わずにスクラッチで開発し、システム子会社のハマゴムエイコムと共同で、FaaSによるSCPシステム刷新に挑んだ。